《戦う瀬戸舞(中編)》

全年齢
Written by 瑞雲





 瀬戸口はストリートを走っていた。街に民間人の姿はなく、彼の背後に若宮と来須が続く。
 戦場である。移動中の打ち合わせにより、ベテランのスカウトは狙撃を担当する瀬戸口の支援をする手筈となった。レーザーライフルが連発できない特性を計算に入れての事であったが、5121小隊そのものが火消し役なので、友軍が手を焼いてる幻獣を倒すのが役目であり、前線で活躍するのは主に士魂号であった。そして、その士魂号はすでにおのおのの方角に散って敵との距離をどんどん縮めていく。
「安心して…狙え。俺たちが…ついてる」
「ザコは蹴散らしてやる。お前は中型を倒せ、いいな!」
「俺としては、野太い声より黄色い声援の方が…」
 戦場では狙撃手を支援するために弾幕を張る要員が脇に控える事を知らなかったので、周りに重火器を持つマッチョがいると思うと、集中しにくい気がした。それでも、突出した友軍を側面から叩こうとする幻獣の群を蹴散らさなければならず、若宮がヘビーマシンガンでヒトウバンやゴブリンを蹴散らし、40ミリ高射機関砲を操る来須と共にナーガやキメラを狙い撃つ。
 瀬戸口と来須の得物の射角と射程は比較的似ていたが、瀬戸口は一発撃つごとに戦場では特に長く感じる再チャージがあるので、連射が効く得物の来須ほど奮わず、命中させるも撃破には至らず中破止まりで、友軍の戦車や重ウォードレスのスカウトが止めをさしていった。
『スカウトは、各自孤立した友軍の支援に向かえ』
「了解!」
 なかなか押し返せないと悟った速水は分散させる方針に変え、すぐさまスカウト達に命令を下す。全員ハモって応答するが、瀬戸口は舞がいる右翼を目指す事にした。他の部隊のスカウトが壁のぼりをしているのを尻目にブースターで一気にビルの屋上へと飛び、そのまま隣のビルへと飛び移る途中で、副砲で弾幕を張りながら主砲で狙いやすい距離まで後退する戦車を見かけた。瀬戸口は、その先にいるゴルゴーンに向かって狙撃した。ミノタウルスと並ぶ中型幻獣が一撃で倒されるはずもなく、その赤い眼で凝視される。しかし、そのせいで戦車から注意がそれたので、その隙に長砲身型士魂号が主砲を発射する。120ミリ砲の直撃によって、ゴルゴーンは瞬時に消滅した。
『師匠!3時方向にきたかぜゾンビ』
「今度は、空か」
 滝川からの通信で、瀬戸口は右手の上空に攻撃ヘリの残骸に寄生した幻獣を発見する。友軍の時はさほど活躍しない柄ばかり大きなヘリも敵にすると案外手ごわかった。このまま行かせては指揮車が攻撃される可能性もあるので、向きなおして頭上の敵に狙いをつける。対空射撃の訓練は受けていなかったが、ビルの屋上というポイントは地面から撃つより多少マシであった。
「鉄クズは、ちゃんと回収に出すのがルールだぞ」
 瀬戸口はスコープの中心に幻獣を捉えると、レーザーを発射した。ヘリの横っ腹は表面積が広く、射撃には極めて有利で、トリガーを半分引くと視認用のレーザーがスポットされ、完全に引くと目視が困難なレーザーが命中する。しかし、戦場は煙幕、土埃、煤煙など光学兵器の性能を落とす要因も多く、一発で撃墜には至らず、今度はきたかぜゾンビが反撃の動きに出る。
 それを察知した瀬戸口はすぐにビルから飛び降り、地面が迫った頃にブースターを噴射して道路の向かいの通りに逃れようとするが、運悪く四車線で、着地したのは中央分離帯の上だった。それでも、きたかぜゾンビは瀬戸口がいた辺りの建物にロケット弾で攻撃をかけて手当たり次第に破壊していたので、移動した事により救われた。
「大砲より、ピストルの方が都合のいいときもあるってか」
 程良く再チャージが済んだ頃、きたかぜゾンビは瀬戸口を発見し、今度は機銃で攻撃しようと、高度を下げるとスピードを上げて迫ってくる。互いに向かい合わせで直線上にいるので、ヘタに逃げるより射線から的を外す前に攻撃した方が得だと判断した瀬戸口は、肩の力を抜いて銃を構えると、そのまま発射する。少しでも遅れたらまともに掃射を受けるところであったが違わず命中し、きたかぜゾンビの生体部分は消滅し、残骸の部分は爆発して路上に散らばる。
『瀬戸口機、きたかぜゾンビ撃破!師匠、やったな』
「正面から突っ込んでくるのは、壬生屋で慣れっこだぜ」
 瀬戸口は先の交差点を曲がって隣のブロックに移動しようと路上に飛散した燃える金属片を避けながら移動する。
「おや?」
 倒れかけの電柱や瓦礫を避けながら進むと、瀬戸口は崩れかけの壁に身を潜める三人のスカウトを発見する。
「お嬢さん達、お困りのようだな。でも、俺が来たからには、もう安心だ」
「あっ!プレハブ小隊の人だ」
「やだ、あのたらしじゃない。どうして、ここにいるの?」
「俺も…スカウトだからさ。それに、人をたらしやスケベの一言で片付けるな。俺は愛の狩人、メンター瀬戸口…」
「お話中のところ、すみません。私、鳳凰司風と言います。あのゴブリンに囲まれてる戦車に乗っている同級生を助けたいんですけど、あいにく手榴弾がないですし、突撃をかけても数で劣っていますので…」
 瀬戸口は三人のドレスの種類や顔つきから、小隊が間借りしている尚敬高の生徒であると割り出し、少しキメながら話しかける。すると、三人の中で優等生タイプの上品で眼鏡をかけた少女が状況を説明する。
「俺が群の一体を狙い撃ちにするから、その隙に全員で奇襲をかけたら…いいのは分かってるけど、この得物じゃ…できそうにない」
 伏撃ちの姿勢でスコープを覗き込むと、戦車は砲撃で道路にあいた穴のせいで脱輪して動けない状態で、その周りに複数のゴブリンが取り囲んでいた。瀬戸口の目からも、このままでは戦車から乗員が引きずり出されて容赦なく殺される事は明らかに見えた。そこで、群の中でひときわ大きいゴブリンリーダーに狙いを付けようとしたが、道路に開いた穴の底で破裂した水道管から勢いよく噴き出す水がちょうど射線に入っていて、水流と水の粒子のせいでレーザーの威力を出し切れない事が判明した。
「できないクセに、なんで援護に来たのよ!やっぱり、口先だけじゃない。どうせ、週間トレンディーのコラムにでも影響されて転属を願い出たんでしょ」
「海ちゃん、あの本にコラムなんて載ってないよ。チャラチャラした服装や髪型の手本だけだよ」
「光さん、巻末の星占いが私のオススメですわ。血液型だとみんなA型なので、おもしろくありませんけど」
「確かに、あの本をよく読んでるけど…ここで話す事じゃないだろ。それに、俺の得物はレーザーライフルだけじゃない。ここに、もう一丁ある。そこで…俺が群に接近して、ゴブリンリーダーを倒す。その間に、お前さんたちは残りを倒すんだ」
 思わぬところで愛読書が話題に出るが、三人の中には四本の腕を持つ重ウォードレスの可憐を着た者もいるのに複数のザコを一気に薙ぎ払う武器を持っていないのに呆れつつ、瀬戸口は自らが囮になる作戦を立てる。
「よぉ、路上駐車の取締りにしては、乱暴すぎるな」
 瀬戸口はブースターで水平に飛びながら、ゴブリンの中でひときわ大きな個体に向かって片手でSMGを撃つ。
『瀬戸口機、ゴブリン撃破!横にずれたな、師匠』
「いいさ、お嬢さん方に花を持たせてやれば」
 口径よりも細いフレシェット弾は矢と同じで安定翼でバランスを取るので横風に弱く、飛んで移動したせいで狙っていたゴブリンリーダーでなく、その隣に居たゴブリンに6本以上の小さい鋼鉄の矢が突き刺さって消滅した。
「たああああっ!」
「幻獣ーっ、覚悟ぉぉぉ!」
「行きますわ!」
 瀬戸口が急激に接近して攻撃した直後、三人が一気に突撃した。浮き足立った小型幻獣の群は光の火炎放射器と四連バズーカ、海の大口径拳銃とカトラス、風が両手に持つSMGによって残らず蹴散らされた。
「ありがとう、瀬戸口くん」
「プレハブ小隊もやるじゃない」
「瀬戸口さんのお陰ですわ。血路を開いてくださって、感謝しますわ」
「お嬢さん達も無事でよかった。いいか、生き残って青春を謳歌するんだ。そしたら、愛を探す事もできる」
 瀬戸口は一般のゴブリンと違って際限なくトマホークを投げれるゴブリンリーダーによる被害が出ていないので安堵した。
『師匠、2番機がピンチだ!』
「近くに3番機はいないのか?」
『前線が分断されてて、向こうから近づけないんだ』
「分かった、すぐ行く!」
 戦車から出てきた少女達がどんな顔か気になっていたが、滝川から通信が入って舞が危ない事を知ると、瀬戸口は誘導に従って2番機が戦っている場所目指して走る。辺りの建物の傷みが激しいので、2番機の奮戦の後が見て取れた。設計と弾薬の工夫でライフルでも近距離で広範囲の射撃が可能となったので、より接近して確実にダメージを負わせる事が出来るようになった。しかし、集束弾と言っても、中型幻獣にとっては散弾銃と同じで、一撃で致命傷を与える事はできず、複数を相手にすると火力で押されるのは必至であった。
「イカンな、実に厄介だ」
『ショートレンジにはミノすけとゴルゴーン、アウトレンジにはキメラ…どうする?師匠』
 巨人と評される大きさの士魂号を発見するのは比較的容易だった。瀬戸口は、戦車の残骸の陰から2番機に攻撃を仕掛ける幻獣を見た。滝川が指摘するように、近距離には四脚で体当たりと生体ミサイルが武器のゴルゴーン、士魂号に対抗する為、二足に進化したと言われるミノタウルスがおり、遠距離には強力なレーザーに敏捷性と防御力を備えたキメラがいた。例えミサイルを装備する3番機でも一度に相手にするには困難で、当然2番機はダメージを受けていた。
「女一人に、寄ってたかって…許せねえ」
 瀬戸口は、戦車の前面装甲だった場所に両肘を置いてレーザーライフルを安定させ、まず弱っているように見えたゴルゴーンに狙いを定めて引き金を引く。射角が狭いながらも、なんとかレーザーが命中し、人類側で言えば戦車の役割をする幻獣が消滅する。
『瀬戸口機、ゴルゴーン撃破!』
「可憐なら、二丁で立て続けに…撃てるんだろうな」
 瀬戸口は後もう一体幻獣を倒せたら、舞も容易にピンチから脱せるのにと得物の性能の限界を悔やむ。
『隆之、そなたが助けに来てくれたのか!』
「舞!戦闘に集中しろ」
 瀬戸口はミノタウルスが白兵戦を挑み、キメラがいまだ無傷なのを思うと、舞を優しく応援する余裕はなかった。
「確かに、ミノすけと俺では力の差がありすぎる…しかし、ヤツの方が的はでかい。肉弾戦を挑めば…必ず当てれる。だが、カトラスは持っていない!どうすれば…」
 再チャージの時間さえ惜しい瀬戸口は、危険を覚悟で突撃を思いつくが、手持ちの白兵戦用の武器がなかった。



「くっ!仕掛けてきたかと思えば、ちょこまかと逃げおって…」
 舞は射程内から更に迫ってくるミノタウルスを92mmライフルで撃とうとするが、巧みに機体の側面に移動して射角から逃れる二足の幻獣に苛立っていた。寸法は短くなったものの、ジャイアントアサルトと違い片手では射撃できず、素早い動きに対応するのは困難で、機体を後退させて間合いを取ろうとすると、ミノタウルスは腹部に寄生させた小型幻獣の集合体を砲弾の破片のように飛び散らせて攻撃してくる事は分かっていた。
「壬生屋が…羨ましい」
 1番機なら二本の超高度大太刀を操ってミノタウルスも簡単に倒せると舞は思った。士魂号程のサイズならパンチやキックでも相当な破壊力を秘めていたが、舞は元々複座型の火器管制官であったことから格闘や白兵戦は得意でないし、外れるのを覚悟して何度も打撃技を繰り出していたら、隙が生じてキメラに狙い撃ちされるのは明らかだった。それに、先にキメラを倒すにも弾薬を交換しないと、今の集束弾では射程が届かないという八方塞の状況なので、舞は芝村らしからぬ愚痴を零していた。
『まいちゃん!あっちゃんが航空支援をおねがいしてるから、それまでがんばらなきゃ、めーなのよ』
「ののみ…司令に、伝えるがよい。そなたは…戦場でも、ぽややんなのだな…と」
 舞は、かつてのように速水を怒鳴りつけたい気分であったが、今では上官だし、ののみも舞を励まそうとしているのが痛いほど分かるので、今すぐ来ない応援を当てにするより、機体をミノタウルスの正面に向け、得意ではないものの、武器を手放さなくても繰り出せるキックを放つ体勢をとる。
「舞、遅くなった…」
「隆之…」
 舞が結局自分はひとりだと感じたとき、見覚えのある声がした。瀬戸口は長い得物を手にミノタウルスに向かって突進する。遮蔽物にしていた戦車の残骸から、女子戦車兵最後の武器と言われる長刀が車体の表面にワイヤーやスコップと同じように架けられているのを見つけ、それを手にミノタウルスへ渾身の一撃を見舞う。大木の太さ程もある幻獣の脚に竿状武器の刃がめり込む。しかし、その装甲によって致命傷を負わせるには至らなかった。
「チッ、浅かったみたいだな…舞、俺にかまわず、このままミノすけを撃て!二発で、こいつを仕留めれるだろ」
「私には…できぬ!」
 瀬戸口の言うとおり脚にダメージを負ったミノタウルスなら射角から容易に逃れる事はできないので、命中は確実であった。しかし、この距離で集束弾を発射したら、瀬戸口も確実に重傷を負うか死ぬ危険があるので、舞には撃つ事が出来なかった。
 非情で冷酷な幻獣がその隙を逃すはずもなく、その棍棒のような下腕で頭部を殴打し、続いてキメラがレーザーを撃つと2番機はそのまま大破した。
「やっぱり、お姫様だ…兵士になれきれて…ない」
 ミノタウルスが攻撃の際に激しく動くと、長刀の柄を持っていた瀬戸口はあっさりと弾き飛ばされて20メートル以上先の地面に叩きつけられたあげく、瓦礫で出来た斜面を転げ落ちる。2番機は人型の最大の弱点である脚部に大きな損傷を受け、バランスを崩してその場に倒れる。その衝撃音は瀬戸口の耳にも届いた。士魂号は機体が大破してもパイロットは脱出できるので、逃げ延びれる可能性は大きい。大破した士魂号から大量に流れ出る人工血液の匂いを嗅ぎながら、舞が戦場から逃れる際はどれくらいポニーテールが揺れるかや、背中から見たヒップや太ももがどんな風に動くか無性に気になった。たわいもない事を考えながら、瀬戸口は目を閉じてヘリのエンジン音を聞き取ろうと、必死に耳を澄ます。このまま自分は捨て置かれて死ぬことになっても、支援がくれば舞が最後まで無事に逃げられるチャンスが増えると思ったからだ。
「私の名誉を傷つけるとは、いい度胸だ!これでも、食らうがよい」
 戦場で口喧嘩のようなセリフが聞こえたかと思うと、銃声がする。舞が脱出して大口径拳銃でミノタウルスに発砲していた。瀬戸口はすぐに眼を開ける。例え50口径の拳銃でもコブリンは倒せてもミノタウルスには歯が立たない事は明らかであったが、とりあえず、舞が無事な事は分かった。彼にとって、それだけ分かれば充分である。後は、自分が派手に銃声を鳴らして注意を引きつけている間に舞が走り去ればいい。自分で立ち上がる事ができなくても、最後に恋人の役に立つ事が出来る。最後に見たかった舞の後姿を見れなかったが、わが身を犠牲にすれば愛する者を守ることが出来る事を幻獣に示せればよい、そう考えていると自分の方に向かってくる足音が聞こえる。
「隆之、無事か?」
「…は、…カか?」
 瀬戸口は自分の側で恋人の声を耳にすると、酷く日常的な感じがして、途端に右足が痛み出した。まるで、校舎の階段から転げ落ちたので助けに来たみたいである。しかし、実際は戦場だ。そう思うと舞を罵ってやろうとしたが、口の中が乾いていたせいかすぐに声を出せなかった。
「機体をダメにしてしまった…そなたの協力で開発できたライフルも、私が100%の力を引き出せぬせいで、こんな事に…」
「お前は、それでも…芝村か!なぜあの時、迷わず撃たなかった!お前のイトコ殿なら、まちがいなくそうしてた筈だ!それが、幻獣に勝つという事だからだ。お前は、最前線には…向いてない」
 舞が近寄ってきて瀬戸口を立たせると、肩を貸して歩き出そうとするが、瀬戸口はいきなり舞を怒鳴った。
「私をいくら詰ってもかまわぬ。だが、そなたを死なせる訳にはいかないのだ。芝村がカダヤを…いや、好きな男が危ないのを放っておいて、何が女だ。だから、そなたを連れて帰る。無職だろうが、懲罰部隊だろうが…そなたが無事ならば、私はどうなっても一向に構わぬ」
「だから、甘いんだ。幻獣は弱いやつを最初に狙う。俺を連れていては足手まといだ。舞、一人で逃げろ!」
「たわけ!そなたが死んだら、誰が愛を広げるのだ。それに、私は逃げるのではない。補給車まで武器を取りに行くだけだ。もちろん、そなたを見捨てぬ。戦闘はまだ終わってはおらぬ、私は最後まで戦い抜くぞ」
「お前は…戦いの流れが見えないのか?あれを…見ろ。3番機も後退している。お前も、幻獣に見つかる前に…」
 舞は頑なに傷ついた恋人を連れて補給車に向かい、そのまま衛生兵に預けるつもりでいた。しかし、瀬戸口はビルの屋根から屋根へ移動している複座型の方を示し、味方が劣勢に立たされているので、追撃を受ける前に撤退するよう促す。
「私にも、あれくらいは見えるぞ。ミサイルを補給しに向かっているのだ。この戦いは、我らの働きにかかっている」
「そう思いたきゃ、それでもいい。お前も、急いで銃を取りに行け。俺にかまうな」
「傷が痛むのは分かるが、いつまでも駄々をこねるのはみっともないぞ。そなた、男であろう?」
「そうだ、早く行け…3番機に遅れるな」
 舞は2番機に乗ってから一度も苦戦した経験がないので、自軍が劣勢に立たされている状況を把握できず、味方を過大評価して瀬戸口の言葉に耳を傾けなかったが、それでも彼がしつこく言うので、地面に座らせると崩れた塀にもたれ掛けさせて脚を伸ばさせる。
「私を見くびるでない。これでも、天才だぞ。試しに、そなたの脚を診てやる。なるほど、骨や血管に損傷はない。膝の関節が外れているだけだ。すぐに治してやろう」
「さすが、お前さんは手つきからして違う…じゃなくて、俺達も友軍も押されているのに変わりはないんだ。そうだ、下水に逃れよう。幻獣も地下までは追って来るまい。マンホールはどこだ…」
 瀬戸口は舞に負傷を治されると、追撃から逃れるべく道路にある幻獣には入れない地下への入り口を探す。
「隆之、不用意に動くでない!」
「舞、スマン…」
「気にするでない、接敵は兵の義務だ。時と場合によるが…」
 ウォードレスで強化された腕なら鋳物の蓋も容易に開けれるせいもあって瀬戸口は軽挙に走ってしまう。舞が注意したときにはすでに遅く、ミノタウルスがすぐ目の前にいた。
「イカン!このままでは踏み潰される…」
「臆するな、隆之!これは、肉薄するチャンスなのだ」
「そうか、なら…俺も本腰を入れるか」
 相手とのサイズと攻撃力の差に瀬戸口は一瞬戦慄するが、恋人と共に戦えると思うと、不思議と恐怖はなく、二人でミノタウルスの両脇に回り込む。
「行くぞ!我らの戦術と勇気を見せてやるのだ」
「やいミノすけ、人間の怖さを教えてやるぜ!」
 二人は幻獣と触れ合わんばかりの距離に入ると、すぐに接近戦を挑む。舞は特製のカトラスを抜き、片手半に伸びて強化された柄を強く握ると何度も突き刺し、瀬戸口は覚えたての裏拳や手刀を繰り出し、ミノタウルスが振り返って反撃に転じる前に一斉に発砲する。装甲は厚いが、人間に比べて鈍重で的の大きい幻獣は二人のコンビネーションによって倒された。
『えーっと、このミノタウルスはどっちの撃破だ?』
「もちろん、隆之が狩ったのだ」
「いやいや、お姫様の手柄だ。素手より、カトラスが強い」
『じゃあ…芝村機、ミノタウルス撃破!師匠、やっとヘリが来たぞ。これで、巻き返せる』
「お前さん、今度壬生屋に剣の使い方を教わった方がいい」
 瀬戸口は滝川がオペレーターの難しさを知ったと思いつつも、恋人にもアドバイスする。もし、カトラスが超金属ヒヒイロカネの刃でなく、柄も特別に強化されていなかったら、到底持たなかった事を瀬戸口は知っていた。
「そうか、前に原が刺す時のコツを教えてくれたが、本格的に戦うには斬り方も知っておいたほうがよいな」
「なまじ天才なもんだから、習う相手を間違っていてもそこそこ成果があがるから不思議だ。きっと、運もいいんだろ」
 瀬戸口は舞を伴って建物の陰に移ると、キメラの攻撃に備えてライフルを構える。
「隆之、レールガンという自走砲を知ってるか?あの滑腔砲は初速が速く、その上射程が長い。もし火力にも恵まれれば、戦車より役立つであろう」
「友軍にそいつがいたら、きっと頼りになるだろうな」
 スコープを覗き込むと、キメラがこっちに標準を定めているので、瀬戸口は舞と共に身を伏せる。リーチが長くて連続してレーザーを放つキメラはナーガに比べて遥かに手ごわく、二人は遮蔽物の陰で攻撃をやり過ごす事にした。
「ヘリが来たぞ、隆之。これで、あやつもすぐ蹴散らされるであろう」
「どうせなら、軍勢の二割ほど一気に倒して欲しい。そしたら、やつら撤退する」
 二人の頭上を攻撃ヘリが轟音と共に駆け抜け、キメラにロケット弾を浴びせて倒し、更に敵陣の奥へと迫っていく。
「滝川、これで敵の主力も総崩れか?」
『ダメだ、スキュラにやられた!』
「何ッ!スキュラもいたのか?」
「2番機がない状況では、さすがに厳しいな」
 二人は空の飛ぶ砲台とも言われる幻獣の名を耳にすると、表情が曇る。空中に浮かび強力なレーザーを放つ幻獣が相手では、元から戦闘用に設計されていないヘリの性能では太刀打ちできないのも当然である。そして、僚機がやられるとすぐに引き上げるのも航空支援の特徴であった。

−To be continued−

RETURN← →NEXT

この小説に投票します・・・ , ZZPのTOPへ戻ります・・・


動画 アダルト動画 ライブチャット