《戦う瀬戸舞(前編)》

全年齢
Written by 瑞雲




戦う瀬戸舞表紙

 舞は壬生屋程ではないが、早めに登校するようになった。それは、新しくできた恋人と共にプレハブ校舎に向かう為であり、極楽トンボ章を持つ彼をひとりで遅刻させない覚悟であった。
「よぉ、お姫様」
「今日も…げ、元気そうだな、隆之。それに、これからは…共に行動できるのだな。今までは、声だけであったが…ついに戦場を駆けることができるとは、私は…嬉しいぞ」
 舞は校門をくぐって来た瀬戸口を見つけると、さっそく仕入れた情報についての見解を述べる。以前と異なり、挨拶めいた事を口にしたり、異性の前で赤面するのもすべて瀬戸口との恋愛がきっかけである。
「おい、何のことだ?」
「そなたは…いつもそうだ。本当は強いのに…分かる場所で決して力を出そうとはしない。信念は立派だが、人の目に触れなくては…そなたの言う愛を広められないのでは?と常々思っていた。しかし、ついにそなたがスカウトとして軍の先頭に立つのだから、余人もそなたが顔や口だけでなくヒーローである事を思い知るであろう」
「この俺が…スカウトだって?俺は特注の士魂号でしか戦えないし…第一、銃なんて片手ぐらいしか撃ったことないぞ」
 舞は瀬戸口を自分なりの解釈で、異動の経緯について結論を出す。瀬戸口は陰で幻獣を二百近く狩っていたが、長剣と笛を持つ士魂号での戦果であって、兵としての総合的な強さではなかった。
「そんなに、謙遜するでない。確かに、努力は恥かもしれぬ。だが、私はそなたを信じておる。まだ時間が…あるな。魅力の…訓練をしてくる。愛とは…よいものだな」
「これは…しっぺ返しか?芝村の女と寝たからな…」
 戦車学校を起源に持つ5121小隊では、よほど資質にでも恵まれない限りスカウトに指名される事はなく、むしろ整備班では働きの悪い者に対する脅しの意味でスカウトに転属させるという言葉があるくらいであった。また、ライバルの陰謀も考えられたが、一介のオペレーターを失脚させる事にどれだけの意味があるかも疑問に思えた。笑って去っていった恋人が多くを知るはずもないので、瀬戸口は司令の口から真相を耳にしようと隊長室に向かった。
「君のシフト変更が決まったよ。瀬戸口くん、君は今日からスカウトだ」
 瀬戸口が隊長室に入ると、ぽややんとしたお人よしっぽい少年がいた。瀬戸口のかつての友人の速水が司令になっていた。
「やっぱり、本当だったんだな。でも、俺がスカウトになったら、今の二人のどちらかが押し出し無職にならないか?」
 以前の司令に対してもそうだったように、瀬戸口は遠慮することなく、上官に質問する。
「それだったら、問題ないよ。増員する事になったから。この小隊でスカウトは士魂号を補助する意味もあるから、三機の士魂号にスカウトが三人なら、全然おかしくないよね?じゃあ、くれぐれも味方に踏み潰されないでね」
「…はっ」
 瀬戸口は速水が司令になってからの変化は、デスクの後ろの壁にかけられた小隊旗のデザインが黒猫の顔の下で交差された小銃がパンナイフになっただけと思っていたが、元パイロットだけあって編成にも抜かりないと感じた。冗談っぽい一説を含みつつも、最後に教室に戻るようにとの指示がないのは、金曜日の時間割に兵士に必要な科目がないせいか、あるいは次にも配置換えを命じる者がいるせいかと考えたが、退屈な授業に出るより、いつ出撃があるか分からない状況に備えて装備を集めたり訓練をするのが先決だと思った。



 スカウトとは戦車随伴歩兵を指す単語で、人工筋肉と装甲を備えたウォードレスに身を包み、かつての歩兵なら運用できなかったような重量と火力を持つ兵器で戦う歩兵である。スカウトになるべくして配置された若宮や来須と違って体力や実戦経験のない瀬戸口が一般のスカウトと同じようにライフルと手榴弾で戦果を上げれるはずもないので、装備や戦術での工夫が望まれた。しかし、購入する資金や陳情する発言力もなかったので、独自の方法で手に入れる事にした。愛の伝道師の異名を取る彼は、女性に対して積極的で、小隊が間借りしている女子校の生徒に対してもそうであり、彼を女たらしと言って露骨に嫌う生徒もあれば気さくに彼に話しかけてきたりする親しい生徒もいたので、彼女達を頼る事にした。
「よぉ、お嬢さん方、会いたかったぜ」
「あっ、グッチだー!」
「瀬戸口はん、スカウトになってんてな。聞いたで」
「瀬戸口さん、いよいよ年貢の納め時なんじゃなくって?」
「タカー、久しぶりデス。もう、DJはヤメタノデスカ?」
「突然の配置換え、お困りなんじゃないですか?」
 5121小隊を問題児の寄せ集めと考える者は少なくないが、女子校にも問題児が存在した。戦車学校といいながらも、全員が戦車兵と整備員という訳でなく、部隊の規模に相応しく燃料・弾薬・火器の調達・保守管理専門の人員も存在し、五人は戦車兵とスカウトの武器担当で、動作確認や不良品の廃棄と理由をつけては授業をサボっていた。しかも、年頃の少女らしく揃って遊び好きで、戦時下でありながらも評判の美少年と短期間ながら関係を持った経験がある。
「さすが、女の子の噂は早いな。真相はまだ謎だけど、配置換えは事実だ。知ってのとおり、俺の所属はショボいプレハブ小隊で、装備も満足に揃わないし…このままじゃ、素人同然の俺なんて、戦場では…お嬢さん達と会えるのも、今日で最後になるかもしれないんだ」
 幅広いレパートリーを誇る瀬戸口も使い分けができる男で、なんとか彼女達の力を借りようと、泣き落としに出た。
「タカー、カワイソウデス」
「みんなー、グッチを助けてあげようよ」
「あかんて、男なんて…都合のええ時だけ、女を利用しよるんや」
「きっと、司令の厚志さんだって手の打ち様がないんです。でしたら、私達が…」
「そうですね、ソックスハンターのデブや白衣を着た変人なら、おっ死んでも心が痛みませんが、厚志さんや瀬戸口さんが戦死するような事があったら、幻獣を憎んでも憎みきれません。でも、このまま物資を持ち出す行為を黙認する事は、班長と風紀委員を兼ねる私の責任問題にもなりかねません。そこで、条件があります。一度は楽しんだ仲になった私たち全員の名前を言えたら、わが校の個人武装をお貸しします」
 美少年の頼みとあって同情的な意見が大半であったが、リーダー格のいかにもまじめそうで眼鏡をかけた優等生タイプの生徒が瀬戸口を試す動きに出た。
「それくらい…お安い御用さ」
「さすが、愛の伝道師ですね。階級も下の名前も結構ですから、順番に苗字を仰ってください」
「いいか、いくぞ…犬塚、桜井、谷、安田…そして、お前さんは石橋だ」
 口では余裕を装うが、手帳を見ずに完璧に言える程の自信はなく、毛穴から汗が噴出すのを感じながら瀬戸口は微かな記憶を辿って彼女達の名前を述べていく。
「本命の女性の名前しか覚えないと言うのは…デマだったんですね。あなたのお陰で心の狭い人間にならずに済んだので、今日は…その恩返しができそうです」
 美佐子は瀬戸口本人の口から抱いていた疑問の答が得られたので、彼に対する友好度が増した。
「よかったね、グッチ」
「タカー、アームズをゲットしたら、試射スルデス」
 おちょこちょいのロリ系とラテン系の帰国子女は融通の利かない一面を持つ班長が快く応じたので、揃って無邪気に喜ぶ。
「私、瀬戸口さんのオーラが見えます。きっと、狙撃兵がお似合いですわ」
「よっしゃ!スコープとトリガープルの調整やったら、まかせとき」
 世間知らずなお嬢様と男勝りな関西弁の娘も進んで協力の意思を示す。
「ありがとう!お嬢さん達の愛で、俺は前線でも役に立てそうだ」
 こうして、瀬戸口は99式熱線砲−レーザーライフルを借り受け、更に彼女達から戦闘コマンドもゲットした。



「反動のない銃なんて、本当にあったんだな。射程は長いけど、一発ごとの再チャージが問題だ。狙撃兵なら、ウォードレスもそうしなきゃな」
 瀬戸口はハンガーに向かうと、従来の戦車兵用のウォードレスから狙撃仕様への変更が必要だと思い立った。
「おい、瀬戸口!授業フケて何やってるんだ?まさか、スカウトに異動になって…ブルっちまったんじゃねーだろうな」
「お前さんだって、サボってるじゃないか。何だ、もしかして…俺に嫉妬してるのか?香織」
 不意に声をかけられると、瀬戸口は小隊の中で女にしては大柄で一昔前の不良のスタイルをした整備員に言い返す。
「てめー!下の名前で呼ぶつってんだろ?おい、この俺が嫉妬だと?」
「ああ、お前さんがスカウトをやりたがっている事は有名だぜ?確かに、適性もありそうだ」
 方向性は違うが、二人は出世や名誉欲より己の生き方を優先するタイプで、言葉を交わす事こそ少なかったが、それなりに相手に一目置いていた。
「おう、確かに俺はスカウトになりてーよ。けどな、速水がそう決めたんなら…しょーがねぇじゃねーか。そこでだ、俺が使う予定だったウォードレスを先に使わせてやるよ」
「そうか、あの二人のお古の世話になろうと思ってたけど、廃棄されたんだったな。しかし、お前さんも愛を広める方法を知っているとは、少女趣味もダテじゃないな」
 田代がかすかに目をそらしながら協力を申し出ると、それが密かに想いを寄せる相手の友人に対する配慮である事を知ると、彼女の純情さが伝わってきて少しおかしく思えた。
「おい、勘違いするんじゃねーぞ!速水の為だって…いってんだろ?それにな、てめーみたいな優男でも仲間だから、簡単に死んで欲しくねーんだ。その代わりな、仲間を見捨てて逃げるようなマネすんじゃねーぞ。そん時は、この俺がてめーをぶっとばす!」
「俺はな、舞とののみの為なら…命だって惜しくはない。これでも、お前さんと同じ…硬派だぜ?」
 隣のクラスの生徒と話しているのに、なんだかヘビメタの女教師と話している気分だと思いつつも、瀬戸口は自分なりの決意を語る。
「へっ、自分で言ってりゃ…たいした事ねーよ。それより、その銃にちゃんとスリング付けとけよ。戦場では得物落っことしても、拾ってくれるダチが側にいるとは限らねーからな。それと、俺たち第6世代はウォードレスに合うように骨格ができてる。それでもな、ウォードレスに愛着がないと、調整がおろそかになって完全に性能が発揮できない。そこでだ、自分らしいエンブレムでも書けよ」
「美少年は日頃は強がっていても本当は少女らしい娘のボディにやさしく愛撫する…」
 瀬戸口は田代から乱暴にペンキと筆を渡されると、おどけながらウォードレスに筆を這わせる。
「おお、角の生えたドクロか。なかなか、いいセンスしてるじゃねーか」
「幻獣を狩る鬼って感じで、いいだろ?」
 一瞬「舞萌え」と書きたかったが、瀬戸口はそれを抑えて愛機の頭部を思わせる意匠を描いた。
「へっ、ナンパの鬼だろ」
 田代はポテンシャルで勝るので獲得した男性用のドレスも、どうせ使い道がないなら男の瀬戸口に与えるのも悪くないと思って去っていった。
「─坂上か」
「瀬戸口くん、スカウトとしての勘も持ち合わせているみたいですね」
 瀬戸口がレーザーライフルにスリングベルトを通していると、背後からサングラスをかけた戦術担当の教官が話しかける。
「別に、志願したわけじゃない。俺は…ののみの側の方がいいんだ。大体な、戦うのだって…そんなに好きじゃない」
「なら、どうして夜に幻獣を狩り続けるんですか?宿代の為にしては、かなりのオーバーワークですよ。それに、あなたが青の戦士でも竜の候補でもないと分かったので…誰も命を狙う事はないでしょう」
「今更なんだ、最初に誘ってきたのはそっちだろ。それに、連日いい女が戦場で朽ちていくと思うと、黙って見てられるか?」
「あなたは、不思議な人ですね。まるで長い時を生きてきてるような…仮定はよくありませんね。なぜあの娘に魅せられているのに、芝村に与しないのですか?勲章がもらえるし、士官だって夢じゃありません。家なしの暮らしからも抜けれるのに、どうしてです?」
 坂上は目の前の生徒が自分に好感を抱いてないのを知りつつも、教師として彼を心配していた。
「俺は愛に生きてるし、金や権力には興味がない。舞とは、対等の付き合いをしているつもりだ」
「やれやれ、みすみす成功のチャンスを捨てるとは…理解に苦しみます。しかし、よい思い出を作るのは大事な事です。それだけで、生き残ろうとする力の源となります。それに、歌う事だってできます。歌は兵に許された暗黙の権利ですから」
「何だ、歌のレッスンでもしてくれるのか?それとも、授業を受けさせるために俺を教室まで引きずっていくつもりか?」
「私は、別に…どうでもいいのですが、女子のみなさんが心配してますよ。特に、石津さんと東原さんが…」
「しまった!ののみ…」
 坂上に取っては当然の疑問でも瀬戸口に取ってはうざいもので、追い払いたいくらいだったが、教師の口から瀬戸口に密かに憧れる衛生官と妹のように接している元相棒の名前を聞くと、彼は態度を一変させる。
「私がわざわざ来たのは、彼女達から官給以外の小火器を校内でプレゼントしていいものかと相談を受けたからです。確かに、この短機関銃は出撃のとき以外に携帯するのは問題です。きっと、本来は加藤さんから石津さんへ贈られた物でしょう。これは、有翼徹甲弾を燃焼速度の速い火薬で打ち出す設計です。動作がきわめて速く、三連バーストも一瞬でしょう。弾装も省スペースで弾数の多いシステムですね。全体的には制式のものより、取り回しが良くて威力でも勝るでしょう…いい銃です。戦場でもきっと役に立ちます」
「あの二人に…礼を言っておいてくれ」
 瀬戸口は坂上から渡されたヘリカルマガジンのSMGを手にすると、一層心強いと感じた。
「俺の後釜は…誰だろう?」
 瀬戸口はハンガーから出ると、指揮車へと向かう。オペレーターだった頃はこの車両に乗って移動していたが、これからは、みずからの足で戦場を駆けなくてはならなかった。そう思うと、ノスタルジックな気分と共に、素朴な疑問を抱きつつ、かつて乗り込んでいた6輪装甲車に触れる。
「師匠!」
「なんだ、お前さんか」
 瀬戸口がたそがれようとしていると、滝川が走ってくる。
「俺さ、オペレーターに配置換えになったんだ。これで、無職脱出だぜ」
「そうか、指揮車の中で芽生える愛もあるかもしれないから、がんばれよ」
 恋愛では自分のことを師匠と仰ぐロボット好きの少年が後継者なら、それも悪くないと瀬戸口は思った。
「あのさ、誘導のコツって何かな?一応、基礎は習ったんだけど…ほら、戦場とかだと、緊張するしさ…」
「そうだな、隣にののみがいるから、困ったときは尋ねればいい。それと、この車の武装は…そんなにアテにならない。おまけに、空も飛べない。こんなもんかな」
 本当は滝川がパイロットに憧れている事を知っていたが、瀬戸口は嫌な顔ひとつせず冗談を交えてアドバイスしてやる。
「誘導の…コツか?状況を的確に判断し、明確な指示を出す事だ。自分の部隊だけでなく、友軍の動きも計算に入れよ!」
「何で、芝村が出てくるんだよ」
 瀬戸口と滝川が話していると、舞が歩きながらオペレーターの心得を口にしながら二人に割って入る。
「簡単だ、隆之と話したいからだ。貴様は、ほんのきっかけに過ぎぬ。シートの調整でもしてくるがよい、チビが」
「師匠、じゃじゃ馬の手綱を緩めるなよ。じゃ」
 舞より階級が下なので言い返せない滝川は、おとなしくハッチから車内へと入る。
「なあ、俺たちが付き合ってる事は、あのカエル顔は知ってるのか?」
「分からぬ。しかし、この小隊には奥様戦隊がいるし…芝村は自由恋愛を否定せぬ。わが一族は血縁でなく、家風で結ばれているのだからな。なあ、隆之。恋ができる者は…しあわせだな」
「忘れるな、愛こそすべて…もっと言えば、愛し合うことを楽しむことだ。上になったり、下になったり…これぞ至福の時。それより…さっき、坂上に冷やかされた。まあ、本田よりは…マシか」
 ともすれば関係の是非が問われる疑問も、新興の一族だけあって寛容らしく、瀬戸口はスカウトへの異動が芝村の陰謀でない事を知ると安堵して悦に入りながらポリシーを語る。
「なんだか、照れくさいぞ…私は、そなたが活躍できるよう…よい物を持ってきたのだ。歩兵に足りないのは機動力…リテルゴルロケットには及ばぬが、コレがあれば家の屋根や川の向こう岸にも容易に飛べるであろう」
「リテルゴルロケットとは…違うのか?」
 元オペレーターの瀬戸口も、授業で習ったのでリテルゴルロケットについて知っていた。ジェット戦闘機並みの推力のあるロケットでスカウトに驚異的な機動力を持たせる装備であったが、強力なロケットを背負って空を飛ぶなどその強烈なGと樹木や建物に衝突する危険を思うと、第6世代でも新米スカウトには無謀だと感じた。
「私にあわせて造られたものだから、あれほどの推力はないし、反応時間も短い。4秒もあれば燃え尽きる。するとガラが排出されて、次のカートリッジがセットされる。つまり、何度か飛べるのだ。持続力より、回数重視なのだ。果たして、どっちが望ましいのやら…」
「その答は、今度二人で探ろう。ところで、どれくらいの高さまで飛べる?」
 渡されたリュックを受け取ると、舞の説明になかった疑問をぶつける。
「なぜ…気付かぬフリをしてくれぬ。と、とにかく…まず、背負ってみよ」
「空飛ぶホスト…ってか」
 骨太でない舞でも装備できるように作られただけあって、ウォードレスを着用していなくても装備できる重量ながら、他の装備の事を思うと、すべて女性の協力によるものだと改めて思い起こす。
「隆之よ、その背中…複座型みたいで…よい」
 実は猫好きでもある彼女は、美少年と簡易ブースターの組み合わせに新たな造形を見た。
「瀬戸口さん!あなたという人は授業にも出ずに、次々婦女子と…不潔です!今日という今日は…」
「ゲッ!壬生屋…」
 瀬戸口は突然の雰囲気の変化と自分に向けられた殺気に戦慄する。壬生屋は古風な美少女で、特に瀬戸口の言動に強く異を唱える人物であり、事あるごとに対立していて、瀬戸口のサラっとした茶髪と壬生屋の赤い袴が仲良く並ぶことはなかった。
「今日は打刀を持っていないが、匕首を持ってるかも知れぬ。早く、逃げるがよい」
 舞も彼女とはあまりにポリシーが違って相容れない相手であったが、破邪の文字が書かれた士魂号での勇猛な戦いぶりを知っていたので、恋人を急いで逃がすことにした。
「この軟弱者!覚悟なさい」
 壬生屋は幻獣に対する戦法と同じくまっすぐ突進し、古武道の型から掌打による一撃を放つ。
「時代劇を見る暇があったら、たまには恋愛ドラマを見るんだな!」
 瀬戸口は彼女の渾身の突きを身を翻してかわすと、ブースターを噴射する。
「おおっ、すげぇ!」
「隆之が宙を舞っている…よいぞ」
 はじめて重力から解放される瞬間に爽快感すら覚えながら瀬戸口は飛んだ。ウォードレスなしで噴射したのでカタログデータ以上に飛び、軽く士魂号の背丈を飛び越え、ハンガーの屋根に至る高さでようやくカートが燃え尽き、瀬戸口はテント系の屋根に着地した。もし瓦や金属製であれば怪我しかねなかったが、図らずもクッションの効果があったので負傷を免れた。
「何たる早さ…まるで松風」
「師匠!カッコイイぜ」
 ハイテクの力を目の当たりにした壬生屋は驚愕し、騒ぎを聞きつけた滝川も感嘆の声を漏らす。
「どうよ?鍛えようが違うんだよ」
 瀬戸口は言葉とは裏腹に屋根を踏み抜かないようにゆっくり立ちながら、どのようにして降りようかと思案を巡らしていた。

『101v1、101v1、全兵員は教室で待機。全兵員は教室で待機。
 繰り返す。101v1、101v1、全兵員は教室で待機せよ。

 全兵員は現時点をもって作業を放棄、可能な限り速やかに教室に集合せよ。
 繰り返す。101v1、101v1、全兵員は教室に集合せよ』

「おっ、出撃だ!」
「腕が鳴りますわ」
「行くぞ、皆の者!」
「何だよ、まだお昼前だぜ?」
 出撃の知らせが入ると、学園の1コマだった風景が一変する。しかし、瀬戸口はあまりの早さと間の悪さに辟易しつつも、準備に急ぐ。

−To be continued−

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