5121戦車猟兵小隊
素肌者かく戦えり5


全年齢
Written by 瑞雲





 第二分隊 田代さんたちの場合

 元整備班の女子を中心とするメンバーは最も数が多く、人数に比例してか担当する重火器も生身の人間が運用できる限界に挑むものだった。20ミリライフル弾を用いる銃はウォードレスを装着した兵が用いるために設計されたものの、軽敏さでは50口径の突撃銃の方が勝るし連射能力ではヘビーマシンガンが優れているので結局制式にはならなかった。しかし、20ミリ汎用ライフルの構想は戦中に開発された対戦車ライフルを原点とし、試作された銃も97式自動砲を手直ししたもので、重狙撃銃と名づけられたが、現場で人力で運ぶには少なくとも二名は必要とする点と真新しさがない所から単に自動砲と呼ばれていた。
 頭数が多い割に強そうでない面々がそろう中で田代だけが異彩を放っていた。小隊の女子の中で最も腕っ節が強く、同時に本田と同じくらい口の悪い彼女がチームを束ねていた。不良でも実直で軍人の務めを理解してる点が善行に買われ、その膂力を生かして射手も勤めていた。
「ニーギ!敵はいるかー」
 田代は自動砲を担ぎながら斥候に向かって叫ぶ。
「ゴルゴーンがいるよー」
 20メートルほど先にいる新井木が田代に中型幻獣を発見したと告げる。彼女は小柄だが動きが早いので双眼鏡を渡されて索敵を担当していた。武器が不足する小隊の中で彼女は拳銃を二丁持っていた。彼女にショットガンは重くて取り回しが悪く、SMGは数が足りないのでまさに苦肉の策であった。もちろんカスタムな訳でもなく、プレスを多様した省力型−別名プレス・ガバメントと呼ばれる−の45口径である。石津に至っては、最も撃つ機会が少ないとされているので、中学でライフル射撃の基礎訓練用に用いられてたM1カービンであった。明らかに幻獣相手の実戦には不向きで、小隊全員に毎日射撃訓練させるのに便利な弱装で取り回しが良い銃を申し訳程度に持参してるように見えた。
「よし、銃を下ろすぞ銭女!」
 田代は一緒に自動砲を担いでいる加藤に言うと同時に地面に下ろし、すぐに伏せ撃ちの体勢をとってすぐさまピストルグリップを握る。
「萌!弾だ」
 石津は装填手なので、肩掛け鞄から三発の弾を取り出して機関部の上の弾装部分に押し込み、右手に左手を添えて重いコッキングレバーを引いて弾をチャンバーに送り込んだ。原型はボックスマガジンなのに自然落下式に改められてたのは、撃ちつくした時に空のマガジンを抜かなくていいのと目標によって異なる種類の弾にすばやく変えれるからだと言われている。石津が幻獣の種類によって弾の種類や数をすぐ用意できるようになったのは、田代が課した訓練によるものだった。
「食らいやがれ!」
 田代は戦線を横切るゴルゴーンをサイトに捕らえると、一気に連発した。セミオートとは言え長大なライフルを拳銃のように立て続けに撃つと、ただでさえきつい反動や銃口の跳ね上がりが強烈に起きるが、第六世代の肉体と気合で持って最小限に抑えて全弾を命中させる。ゴルゴーンはそのまま横転したかと思うと、そのまま消滅した。
「よーし、ニーギ!今度はそっちに行け」
「番長、そっちは坂道やで」
「グズグズ言うな!位置が高い程いいに決まってんだ」
 訓練のときと同じく田代は部下を怒鳴って自動砲を移動させる。車両ほどの機動力も無く、ウォードレス兵のように重装備を持って壁のぼりもできないのでひたすら脇道を見つけては敵を狙いやすい場所へ次々移動するしかなかった。坂を登るときは石津が加藤のサポートに回る。二脚以外に担ぎやすいように角材と針金で作られた簡易の運搬用ポールも追加されてるが重いのに変わりなく、迅速に運ぶことに訓練の重点が置かれて田代がなんとかまとまりのない部下を鍛え上げた事で状況に応じて対処できるようにしていた。
「キメラはっけーん!」
 新井木は見通しのいい場所に行くと、すぐ断続的に銃声が続く場所を見下ろすとそこから離れた位置に新米の戦車兵なら手を焼くキメラがいた。それと対峙する学兵たち武器は射程が短かったり威力があっても振り回しが聞かないものなので、本体を遮蔽物に隠して頭部のみを出してレーザーを放てる幻獣一体に足止めされていた。
「バカだねー、ウォードレス着てんだから、もっと接近して狙えばいいのにぃ」
「不用意につこっこんだら、味方の弾に当たんだろ!邪魔だ」
 軽口を叩いてる新井木をどかすと、田代は自動砲を据えて立射でキメラがいる方角に銃口を向ける。田代が来た場所は資材置き場で運良く土管や砂利が積まれていて陣地のようであった。石津がスチールコア入りの弾を二発装填すると、器用に複数の相手と戦うキメラに狙いを定める。いくら場所がよくてもスコープがなくてはギリギリの状況で、キメラが一時的に止まった瞬間を逃さず一気に二発撃つ。舞い上がる砂塵のせいで初弾は位置を読み誤ったらしくはずれ、二発目は跳ね上がりの影響もあって奇跡的に命中する。キメラは被弾したものの、致命傷には至らず、むしろダメージのせいで隙が生まれたのが命取りとなり、友軍の高射機関砲によって倒された。
「畜生!もう一発弾があれば仕留めれたのに」
 田代は自動砲の反動に耐えられるスコープが簡単に見つからないことも防御力を備えた幻獣を容易に倒せないことも知っていたが、それでもくやしかった。もしウォードレスを着ていたらそのまま突っ走って自慢の拳で叩きのめしたいさえ思えた。
「限界も…あるわ。これが、実戦の…教訓よ」
 石津は幻獣の種類によって弾の種類と数を決めていたマニュアルも、想像以上に過酷な状況では対処しきれないと冷静に悟った。
「たいへーん!ゴブリンがいっぱい来るよー」
「来やがれってんだ!お前はデカブツを運んで来い」
 新井木が小型幻獣が群で迫ってくると告げると、田代は肩にかけていたショットガンを引っつかんで坂を駆け下りる。新井木は指示通り持ち場を交代する。
「番長、おもろうなってきたな」
「へっ、てめぇはヤワだからバカスカ撃ったら肩が痛いんじゃなかったのか?」
 田代が迎え撃とうと駆け出す前に、すでに加藤は小型幻獣用の武器を手に走っていた。
「訓練と実戦は別や。うちがなっちゃんの分まであいつらを倒すでぇ」
「あんなヤツより遠坂に感謝しろ!女と変わり者しかいない部隊の為に銃を用意してくれたんだからな。一回くらい、そのクチでしてやれよ」
「番長、下品やわぁ。うち、乙女やで」
「いいか、クソチビどもを一匹でも通すんじゃねえぞ。囲まれたら最後、ボコられて乙女も尻軽も串刺しだぞ」
 田代が言うとおり、二人の近距離用の銃は遠坂の家にあった猟銃だった。田代は故障が少ないポンプアクション式で、加藤のはボックスマガジンを備えたオートローディング式である。第五世界では民間の銃の規制も緩く、実戦に耐えうる装弾数だった。数は圧倒的でも坂を上る側でしかも素手のゴブリンに対し、塹壕戦やジャングル戦で恐れられた接近戦用小火器を持つ二人には三十体近い数も押し返せない脅威ではなかった。
「オラオラァ!」
「覚悟しいや!」
 田代はなるだけ接近して近距離から散弾を浴びせ、加藤はリーチを取りつつも速射性を生かして間隔が取れてないまま突撃してくるゴブリンを集中的になぎ倒す。田代のレミントンはチューブマガジンなので撃ちつくすと装填に手間がかかったが、撃ちつくした頃には敵陣を突破した後だった。AKのデザインを受け継ぐサイガ12Kを操る加藤は、マガジンを交換する際にスラッグに切り替え、浮き足立ったゴブリンや攻撃のチャンスを逃したゴブリンリーダーを仕留め、運良く二人の攻撃を受けなかったゴブリンも新井木に自動砲で残らず撃たれた。
「番長、どっちに進む?」
「そうだな、あっちが近いだろう」
 遭遇戦が終わると全員集合し、新井木が斥候として進路について聞くと、田代は自転車ぐらいしか通れない道を指差す。しかもその先はトンネルだった。トンネルの長さがどれくらいかは分からないが、もし入ってる最中に向こうから流れ弾やゴブリンがやってきたらと思うと新井木は不安だった。それでも、自分が先に行って進路を確保しなくてはならないので、二丁の拳銃をすぐ抜ける状態にして道を走り抜けるとそのままトンネルに入っていく。
「きゃー!」
 新井木はトンネルに入って半分ほどの辺りで向こう側から何かが来る気配を感じ、立ち止まって両手でそれぞれの簡易型コルトを抜いて構えるが、発射した際に兆弾になる可能性と暗い中で迫ってくるヒトウバンを倒せなかったときの恐怖で走って来た道を戻る。
「バカヤロウ!」
 新井木がトンネルから出てきたと同時に田代はその近くに着弾するようにショットガンをぶっぱなした。怒鳴ってはいたが彼女は支那やソ連の督戦隊と違って射殺する気はなく、そのまま味方のいる場所まで戻ってこられたら敵に居場所を教えるようなものなので、警告射撃によって立ち止まらせた。目論見どおり、新井木は立ち止まってその場に屈む。
「ば、番長、ヒトウバンが来るよ」
 新井木の言うとおりヒトウバンは小型だが浮遊してるのでスピードが速く、追いつかれると攻撃をかわすのは難しかった。
「……」
 田代がコッキングしてる間もヒトウバンはトンネルを移動しており、何を思ったのか石津は肩に下げていたカービン銃を構えてトンネル内に向けて発砲する。威力の弱い銃でまだ見えない敵を撃つのは滑稽に見えたが、ヒトウバンがトンネルから出で光を満足に浴びないうちに消滅し、次に迫ってくるもう一体にも的確に命中し、消え行く中での苦悶の表情は現世への未練にも感じられた。
「信じられねえ」
「水銀…弾よ…こういうときのために…用意して…おいたの」
「なんや、コソコソ作ってる思ったら、秘密兵器やってんな」
「強力だけど、それっていかにもヤバそうで条約に触れそうだね」
「何、生ぬるいこと言ってやがる。幻獣相手にルールもクソもあるか!よし、今度は加藤が先頭で一気に進むぞ」
 ジャングルで撃つと枝や葉っぱですぐに弾道がそれると言われた銃があっさり幻獣を倒したので、命中後に内部で飛散する高温・高圧の水銀の効果に一同は驚くものの、自分達が弱いことに変わりはないので警戒しながらトンネルに突入する。
「番長、外に出た途端…大軍が待ち構えてたらどうします?」
「得物があるだろ、ぶっぱなせ!俺達は進むしかないんだ。消防署までいけば戦友と合流できる」
 短い距離とはいえ狭くて暗い中を進んでいると、少女達は不安になるようで代表するかのように加藤が口を開くと田代は激を飛ばしつつも当てのない進軍でないことを告げて士気を保とうと努める。そんな努力をあざ笑うかのように全員がトンネルから出て十歩も進まないうちに生体ロケットが飛来し、そのうちの一発が数十メートル側に着弾する。炸裂する寸前に全員訓練どおりに素早く伏せ、なんとか爆風と破片の直撃は免れるが、少女達にコンクリートやアスファルルトの小さな欠片が降り注ぐ。
「てめーら、無事か!」
 自動砲を投げ出してしまったことも忘れ、田代は伏せたままキョロキョロして周囲を見回す。
「あかん、敵から丸見えちゃうん」
「もー、ボクじゃなかったら危なかったよ」
「ゴチャゴチャいうんじゃねぇ!このまま散れ!固まってたら次はないぞ」
 田代が確認するまでもなく、彼女達の悪運は強く、すぐ反撃の準備に移る。
「番長、大砲取りにいけないよ。どうやってやり返す?」
「畜生、相手はゴルゴーンだ。手榴弾があるだろ、一斉に投げるぞ!」
 それぞれが匍匐前進で目立ちにくい位置に移動すると、ゴルゴーンをしばらく見据え、突進してきたところに伏せた状態で一斉に投擲した。それぞれが同じタイミングでないのは言うに及ばず、見事にばらばらな位置に飛び、なかには鼻先で炸裂して破片を浴びせるものもあったが、最も威力を発揮したのは足元で爆発したものだった。スカウト用のものよりサイズも炸薬の量も少ないので大きなダメージを与えれなかったが、ゴルゴーンは動きが止まったことで友軍に狙い撃ちされて倒された。
 田代が集合を示すハンドシグナルを出すと、石津が発煙手榴弾を使い、煙が出ている間に集合して自動砲を回収するとほとんど壁しか残っていない建物の影に潜んでまだ近くにいるかもしれない中型幻獣に備えようとしていると頭上に爆音が響く。
「きたかぜゾンビや!」
「対空射撃よぉおおいぃっ!」
 加藤が叫ぶまでもなく、田代は上空に独特のシルエットを確認すると大急ぎで迎撃の用意をはじめる。もちろん自動砲の設計にない使い方だから、仰角を取って保持するには全員の協力が必要で、装填する弾の数も多かった。空の幻獣が猛スピードで飛んで行ったかと思うと固定翼機のように大きく旋回して上空から丸見えの田代たちを目指して飛来する。通常のきたかぜゾンビに比べ、スタブウィングがなくて胴体が太かったが、彼女達はヘリの残骸に寄生した幻獣であること以外区別が付かないので気に留めなかった。
「来やがれってんだ!」
 きたかぜゾンビが緩降下と同時にスピードを上げて機銃掃射をかけてくる。田代も怖じず必死に撃ち返し数発が命中する。輸送型に派生したきたかぜゾンビのずんぐりとした胴体から丸い塊が次々落ちると、攻撃を諦めたように反転しながら上昇していく。
「ロケット弾撃ってこうへんな」
「てめぇと同じでケチなんだろ」
「変ね…速度が…遅かったわ」
「どんどんバラけていったから虫の息だね」
「よし、こうなったらとっとと撃ち落しに行くぞ」
 一同はスカウトでも手ごわい相手にダメージを負わせたことで勢いづき、場所を変えて再びきたかぜゾンビを攻撃しようと自動砲を担いだまま移動する。建物が全壊して要壁だけが残る通りを進み、程よく窪んでいて木々に囲まれた場所を見つけるときたかぜゾンビの方角に銃口を向けつつ下り坂をゆっくり歩いていく。
「番長!背後をつかれてるのウチらや」
「ゴブリンが…来るわ」
「やだぁ、すぐ側まで来てるよ」
「卑怯なザコ共だ!蹴散らすぞ」
 一同は次の攻撃が撃墜のチャンスと考えていたせいか、周囲への注意が散漫になっていたので、ヘリ降下したゴブリンの小さな群れの接近に気付くのが遅れ、全員で自動砲を下ろした頃にはプレハブ校舎の端から端まで位の距離しかなかった。
「ボクに任せて!」
 新井木は二挺拳銃を同時にホルスターから抜くと甲高い声を上げて迫り来る複数のゴブリンに発砲していく。しかし、ゴブリンたちは人間より小柄で時折ジャンプもするので彼女の運動神経と動体視力を持ってしても突撃を食い止めるに至らず、数体に被弾させるが制圧するほどの火力はないので先頭の一体を倒すのみであった。
「…卑怯よ…呪うわ」
石津も大急ぎでカービンを手にして反撃に移るも、反動が軽くても腰溜めでは精度が望めず、一体しか倒せなかった。
「うるぁっ!」
 加藤が散弾銃を構えた頃には距離が近すぎて狙いが定まらず、思わず銃そのものを投げつけ、ゴブリンが怯んだところにダッシュして安全靴で強烈な蹴りを放つ。容赦ない一撃が命中し、執拗につま先での打撃やストンピングを見舞うとゴブリンは成すすべもなく消滅する。
「おらあぁぁっ!」
 焦っている仲間に対し、田代はどこか血が騒ぐようで、喧嘩で鍛えた度胸で間合いを詰め、素早いジャブで動きを止めると自慢のストレートを放ってあっさり一体を仕留め、側にいたもう一体が長い手を振りまして攻撃するが、すぐさま屈んでかわすと同時に懐に入り、重いフックでバランスを崩させ、勢いよくアッパーを繰り出すと二体目も吹っ飛んでそのまま消滅した。
 田代の奮戦で一同の士気は上がったようで白兵戦でも怯むことなく戦い、なんとか倍近い数のゴブリンを撃退したものの疲労は大きく、きたかぜゾンビが友軍の二門のレーザーライフルを装備する対空型可憐に撃墜されたことに気付くものはいなかった。
「ニーギ、消防署はどっちだ?」
「あっち、番長…もう行くの?」
「何だ、これくらいでへたりやがって。こんなザコ程度で。俺だったら、ミノすけだって殴ってやる」
 三人は緊張の糸が切れて途端に膝が笑い始めたのに対し、田代はまだまだ余裕な様子で、来須が使っているシモノフ対戦車ライフルよりまだ重い自動砲を一人で肩に担ぐとそのまま歩き始める。
「かおりん、強すぎるやん」
「しっ!聞かれたら大変だよ。ひとりであの大砲を持てるなんて…」
「あの拳…只者じゃ…ないわ」
 改めて田代のすごさを知った三人は再び奇襲にあってもいいようにそれぞれの銃を手にすると、彼女を追って有事には公民館と並んで臨時の砦となる建物を目指す。

−To be continued−

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