5121戦車猟兵小隊
素肌者かく戦えり4


全年齢
Written by 瑞雲





 第二分隊 茜たちの場合

 茜大介は小隊が機甲猟兵に降格される前は無職であったものの、整備班の手伝いから重機関銃の運用を実質的に仕切るという出世を果たしていた。担当の三人の中でインカムと遠くの敵を見るツールを持っているのが象徴的で、頭には新市街で買った都市迷彩柄のキャップを被り、半ズボンから伸びる足の膝と脛を守るプロテクターを装着し、手にはかつて軍で戦車乗員用に配備されていたアメリカ製の旧式のSMGを持っていた。通常は重機関銃を運ぶには三人で担ぐのが普通であったが、ロシアの機銃用の小さな砲車を改造したものにマウントしてるので、ボフォース40ミリ砲と並ぶロングセラーのM2重機関銃も二人で運べた。
「タイガー、バレルに触れないでください。射撃の後だったら、確実に火傷モノです」
「その名で呼ぶな」
 射手を務める岩田が機銃を後ろから押し、遠坂がそれを脇からサポートする感じであった。顔のメイクもそのままで足元をブーツに変えただけの岩田に対し、遠坂は仕立てのいい制服にまだ新しい陸戦ベルトと軍靴を身につけていたので、まるで士官のように見えた。
「止まれ!」
 岩田と遠坂が下っ端らしいやりとりをしながら機銃を押していると、茜が停止の命令を出す。彼はブロックの角まで進んだので、建物の影に身を潜めたまま軍の放出品の塹壕用望遠鏡で角を曲がった先を確認する。
「友軍が足止めを食ってる。接近して援護だ」
 突き当たりの先に公園の塀と植え込みに身を潜めて幻獣の進撃を食い止めてる数人のスカウトが見えたので、茜はそこに重機を寄せるように指示を飛ばす。小柄でしかもウォードレスを着てない茜が来たときは半信半疑であったが、友軍も重機関銃が遮蔽物に寄せて岩田が砲車の棒型脚を地面に置き、脚に備えられたサドルのような形をした簡易の座席に腰掛けて撃つ姿勢を取ると、何だか旧型の兵器にも拘らず頼もしいと感じた。口径はスカウトの突撃銃と同じでも、射程や連射速度では圧倒的に有利で、まだ一年生と思われる学兵たちが注目する中、茜が岩田に射撃の合図を出す。
「フフフ、ザコは瞬殺デス!」
 岩田は両手でグリップを握って親指でトリガーを押すと、50口径に相応しい強烈な発射音とマズルブラストと共に突撃してくるゴブリンの群をなぎ倒し、残されたゴブリンリーダーもトマホークを投げる余裕もなく倒される。
「まだナーガが残ってます」
「遠坂の言うとおりだ、あいつも狙え」
「このイワッチにお任せくだサーイ!」
 遠坂は本当にスカウトたちを足止めしている幻獣を見つけた。茜は岩田にそれも撃つように命じると、普段と同じギャグ好きな変人の口調でレーザー砲を装備する幻獣を撃つ。クネクネと動く幻獣になかなか弾を当てれなかった学兵達も強力な火力に支援され、腰ほどの高さの塀から身を乗り出して一斉射撃するとナーガはあっけなく倒された。
「ラビット、重機を持ち上げてもらったんで助かりましたね」
「ウォードレスも着てない私達に親切なのも、彼らがまだ純粋だからです。なまじ古参だと、排他的でいけません。ラビットもそう思いませんか?」
「何言ってる、同情されてるだけさ。僕らは一発でも攻撃があたったら、重症はまぬがれないんだ。せいぜい、物陰から骨董品でねばってやるさ」
 岩田はソックスハンターを休業していたが、茜の白くて長いソックスと自分たちより常に前にいる所からウサギに準え、遠坂も役割を示すコードネームと思ってそう呼んでいた。重機関銃班の定員には満たないし班長では原と区別が付かないので、茜は勝手にしろという気持ちで好きに呼ばせていた。実際、彼が重要視していたのは来須からの指図と指揮車からの命令であった。
「見てください、モコスです」
「不思議ですね、ドコをやられたんでしょう」
「トップアタックだ。戦車といえど上部装甲は薄い」
 遠坂が大破した友軍の車両を発見すると、岩田は小型駆逐戦車の欠点である機動性のなさと推理するが、茜はどんな倒され方をしたかすぐ導き出し、実際に残骸と化した車体に足をかけて砲塔の上部を見ると案の定、レーザーで撃たれた穴が数箇所開いていた。
「車長は即死したようですけど、残り二名はなんとか逃げれたでしょう。さすが熊本の意地と呼ばれるだけはあります」
「感心してる場合か!こいつがやられているという事は、まだ生きてるぞ」
「目には目をデース!イワタマンブラストで応戦します」
 車体サイズからは想像も付かない装甲を備えたホバー戦車の弱点を正確に狙って倒せる幻獣はキメラしかいないと茜は直感し、二人に警戒を促す。
「ラビット、機銃ごときでキメラに対抗できるんですか?」
「甘いな、なんでこいつが三軍で使われてるか知らないのか?弾道低伸性に優れてるんだ。25ミリ機関砲よりよっぽどいいんだぞ。でも、威力が足りないから、なるべく多く当てる必要がある」
 不安そうな御曹司に対し、茜は下士官のように淡々と力説する。しかし、最も頼りになるのは壊れても味方の盾になると言われるモコスの装甲であることに留意してなかった。
「フフフ、スバラシィ!」
 先にキメラが仕掛けるがそのレーザーは戦車の車体にも命中せず、岩田はそのままの位置からシルエットが分かる程度の標的に向かって連射する。彼は、スカウトでもよい装備でないと容易に倒せない敵と同等に張り合っている状況にすっかり高揚していた。
「岩田、もっと下だ!足を狙え」
 装甲の陰に全身を潜めて塹壕用潜望鏡でキメラの反応を確認していた茜は、機動力と安定性を奪えば有利に立てると判断する。
「ノン、ノン!火力を奪う方が先デス」
 理詰めな茜に対し、岩田はむしろそれぞれにレーザー砲を備えた三つの頭部に狙いをつけて集中的に攻撃する。見た目より視力と集中力のある彼は確実にキメラの攻撃力を奪い、逃げようとしたところに胴体めがけて弾幕を浴びせると虫のように脚をヒクつかせて霧散した。
「やったな、岩田。そろそろ、移動するぞ」
「待ってください、あっちにゴルゴーンがいます」
「よせ、ここからじゃ…あたりっこない」
「そうです、バット。無駄遣いしたら、弾がなくなります」
「忘れてました…イワタマン、ピンチ!」
「気付くのが遅いんだよ!これからどうするんだ」
 本来とは異なるサイズの標的に用いたせいで弾薬を著しく消費し、その上岩田の悪ノリでついに弾を使い果たしてしまった。茜が思わず激昴して岩田を殴りつけようとした瞬間、道沿いにある理髪店のガラスが派手に割れ、そこから小型幻獣が押し寄せてくる。
「ちきしょう!間が悪すぎる」
 茜は急いで車体から離れると、最も動きの早いヒトウバンめがけてSMGを発射する。彼の銃はグリースガンという愛称を持つ独特な外見でプレスを多用した省力型の連射速度を抑えたSMGであったが、ストッピングパワーの強い45口径の弾薬に更にパウダーを増量して弾頭も貫通力より致死性を優先するソフトポイントで難なく仕留めていく。
「どうやら、遠くの敵に気を取られすぎてたようです」
 遠坂も飛び出すと、ゴブリンの列に自前の銃で弾を浴びせる。父親が元警官の富豪にして対幻獣強硬派だけあって、不仲な息子にも装備が不足してて武器が必要になったと頼まれると気前よくコレクションから与え、いくつか持ち出させていた。茜と同じSMGでもトンプソンの方が高いだけあって質も良くて連射速度が速くても重量があり、射撃に不慣れな彼の技術を補うに充分で、人よりやや小さい目標にどんどん命中させる。近距離のみとはいえ連続的な火力は圧倒的で、あっという間にゴブリン達が倒される。
「岩田!お前も戦え」
「ラビット、ゴブリンリーダーです」
「ここはイワッチにお任せを!」
「そういえば、その武器何だ?」
「フフフ、秘密兵器です」
「おい、接近しすぎだろ」
「計算済みです。イワタマンファイヤー!」
 岩田は拳銃を撃つくらいの距離まで人間より一回り大きい幻獣に接近し、フレイム・スロウワーを使う。軍で制式のものより小型でハンドメイドに近い外見でも火力は十分で、ゴブリンリーダーは一瞬にして炎に包まれて煙とともに消散した。
「どうです、イワッチの秘密兵器の威力は」
「バット、街を火事にするつもりですか」
「大体予想できてたけど、そんなんじゃ遠くの敵には届かないし、どれだけ連続して使えるというんだ!お前、坂上の授業聞いてなかったのか」
 得意げな岩田に対し、遠坂の非難と茜の説教という猛烈な反撃が襲う。バツが悪くなった岩田は、珍しく黙り込んだ。
「まあ、いい。生き残れば学習できる。これも、実戦で得た教訓だ。強くなって、いつか芝村を見返してやる」
 茜は戦いの進め方として国土より人的資源を守る方が重要と考えていたので、街が壊れることに抵抗はなかった。無様な雑兵でも手柄を立てる前線にいる以上チャンスと受け取り、ゆっくりでもいいから力をつけていずれは母の仇である芝村に代わって生徒会連合を仕切りたいと強く思った。
「バット、気を落とさないでください。次はAKでも使いましょう。今は離れた敵にはこれで応戦してください」
 遠坂はウォードレスがないことによる使える装備の種類や数の限界を改めて知り、岩田を励ますと投げやすい柄付き手榴弾を手渡した。
「お前ら、次の邪魔が入らないうちにモコスを調べるぞ」
「はて、乗員はすでに後退したはずでが…」
「タイガー、甘いですね。車内から目ぼしいものを探すんですよ。戦場の常デース」
「そうですか、副砲ならあの銃架に据えれそうですね」
「25ミリ砲を生身で撃てるなら、ぜひやってほしいよ」
 もし主砲に同軸機銃があれば重機に弾薬が使えるのにと茜は悔やんだ。しかし、逃げ出した二人のうち片方が負傷していたら肩を貸すか負ぶって後退してる可能性もあるので、その際には自衛用小火器が車内に残されてるのではという甘い期待もあった。
「司令が言ってた通りですね。大破した車両のボディに備え付けられたスコップを回収したら、不発弾探しの時に使えますね」
 遠坂はすっかり武器探しを忘れて車体側面からスコップを外して持った具合を確認していた。
「おい、岩田!勝手にエンジンをかけるな!燃料が漏れてたらどうするんだ」
 茜は帽子を取って袖で額を拭っていると、エンジン音が聞こえたので思わずビクッとした。
「何言ってるですか、ラビット。私は副砲をはずして側溝にでも隠して、撤収のときにコッソリ持ち出して前の指揮車が帰ってきたときの予備に取っておこうとしただけです」
「堂々と言ってどうする!なら、この音はどこから…」
 どこからか取り出した工具で25ミリ砲を銃架からはずそうとしていた岩田は茜に言い返す。すると、茜は過敏反応だったと思いつつも、どこからホバーの車両が来てるか分からないので、瞬時に車体の陰にひそんで潜望鏡で伺う。
「ラビット、レールガンですよ」
「破損した様子はないので、弾薬の補給のために後退してるのデース。幻獣が追いかけてる様子はないので問題ないでしょう」
 用心深い茜に対し、二人ははずした25ミリ砲を車体から下ろしながら自分たちに向かってくる車両について報告する。
「ぼ、僕だって…それぐらい見えてたさ。それより、早くその機銃を隠せ」
 茜は車体から身を乗り出すと、二人に自分がひそんでいた位置に25ミリ砲を急いで隠すように命じる。彼は、とりあえず向かってくる89式120ミリ自走砲が通り過ぎるのを待ち、それから溝にでも機銃を隠してから前進しようと考えていた。しかし、そんな目論見はあっさりと崩れる。
「ねえ、義勇軍。その車、あんた達の?」
 モコスの評判のおかげで影の薄くてそのせいで多くの資料でも憶測の域を脱しない記載しかされてない車両が三人の前、正確にはモコスの残骸の前で停車した。どちらの車両も車台はホバー装甲車であったがサイズが違い、レールガンの場合は装甲より機動性と軽敏さに重点が置かれ、乗員も二人に抑えられ、その代わり主砲の砲身長は長く、精度と射程においては士魂号L長砲身を遥かににしのいでいた。
「僕は日本人だ!あんな難民の寄せ集めの連中とは違う!僕たちは5121小隊隷下第2特殊任務班だ」
 茜は髪の色のせいで外国からの難民で構成される二流の軍と間違えられたことに憤慨し、所属をでっちあげて戦闘室から身を乗り出してきた女子の学兵に言い返す。彼は外人でなくハーフで日本国籍を持ってたし、プライドが高いので決して自分たちが処分されてウォードレスまで取り上げられたと言う気はなかった。
「そう、勘違いしてたわ。あたしが悪かった。このご時世、所属や階級が変わるのは珍しくないのでお互いのことを話すと長くなっていけないわ。よかったら、名前を聞かせて。あたしは桜井綾香、そっちは静本美姫」
 砲手と車長を兼ねる姉御系と運転を担当するおっとり系のメガネっ娘がレールガンから降りてくる。
「僕は茜大介。ママンは科学者の茜・フランソワーズだ。人工筋肉を発明したのに、芝村に殺されたんだ」
「遠坂圭吾といいます。一介の十翼長です」
「フフフ、イワッチデス。お互いエレガントにいきましょう」
 三人は綾香はどこか田代、美姫は田辺に似てる気がした。彼女たちは紳士的で人当たりのいい遠坂に好感を抱いたが、茜には美形でも理屈っぽい鼻つまみ者だと感じ、岩田に対しては変わり者だが、なにか特技を持っているタイプだと判断する。
「補給車まで戻るのってウザいからその残骸から弾薬を拝借できたらと思うんだけど、手伝ってくれないか?」
「現状としては、自動装填装置の調子も悪いし、副砲がないので…最近小型幻獣が増えてるのに、単独の際は接近されると反撃が遅れるんです。助けてください」
「フフフ、合理的ですね。確かに主砲の口径は同じだし、このモコスは無人で弾薬も残ってます。まさに、戦場のリサイクル、イイ!スゴクイィ!」
「私達は、軽装備になっても火消し役には代わりありません。支援も可能です。幸い、車両整備の経験もあるので、スカウトよりお役に立てると思います」
「何、勝手に決めてるんだ!僕たちは善行の部下だろ。まずは、連絡をだな…了解、応援活動を実施します」
 茜としてはもし手を貸すことになってもすんなり応じてはメンツが立たないので、ある程度上官に検討して欲しかったが、来須から善行に報告されたとたんすんなりOKが出てしまい、思わず面食らった。それでも、決定が出た以上は素直に従い、弾薬を積み終えた後は岩田が装填手を担当し、遠坂と茜はSMGを手に車体に腰掛けて白兵戦を挑んでくる小型幻獣に備えていた。
「僕は…何をやってるんだ。これなら、姉さんと同じチームでよかったんじゃないか?」
 茜はどんどん最前線に向かっていく車上で機動性の重要さを実感しつつも、乗り心地の悪さと主砲を発射する際にいちいち停車して後部の固着装置を下ろさないと撃てないのをなんとかすべきだと文句を言いたかった。

−To be continued−

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