5121戦車猟兵小隊
素肌者かく戦えり3


全年齢
Written by 瑞雲





 第一分隊、速水と舞の場合

 元3番機パイロットのうちの一人は芝村であったが、彼女も例外なく軽装に倉庫に眠っていた兵器で戦うことになった。かつては複座型でガンナーとしてミサイルを操作していた彼女も、今は一度に一発しか撃てないロケット砲を手に戦場に立つ。発射するごとに強烈な閃光と煙の塊が出て敵に発見されやすい兵器を選んだのも、軽量でありながら強力だからで、ウォードレスまで失っても火力は失いたくないと思った彼女なりの結論だった。服装は制服と激しい動きに備えて肘と膝にプロテクターを装着しただけで、背中には数本のロケット弾を立てれる手製のラックを背負っていた。
「厚志、煙幕だ!」
 舞が命じると、速水がナーガの正面にグレネードランチャーを撃つ。最も小型で直射もできる迫撃砲として歩兵用に編み出された兵器で、暴徒鎮圧にも用いられるだけあって40ミリの弾薬には様々な種類があった。もちろん正規軍が用いる回転式弾装の連発型でなく、第二線の組織向けに開発された単発型であったが、それでも単純な中折れ式より気が効いた造りなので、元スカウトの二人ほど腕力のない彼には弾数より軽さのほうがありがたかった。立射で放たれた弾丸はナーガの手前で落下し、白煙を撒き散らすと、立て続けにもう一発撃つ。長い胴を持つ幻獣が相手では一発の煙で覆ってしまうことが出来なかったので、バネで排薬されるとすぐに右側の装填孔に次弾をねじ込むと左手で握るグリップにある大きなレバーを引いて薬室が閉鎖されるとトリガーを引く。二発目も近い場所に着弾し、二発分の煙がナーガの姿を覆い、光砲科の幻獣の攻撃力を弱める。
「今だ、舞!」
 舞は背後にバックブラストの邪魔になる壁などがないのをチラッと確認すると、RPG−7を発射した。かつての東側でベストセラーの携行型対戦車兵器は撃ちやすく、狙い通りナーガに命中する。
「舞、HEAT弾とは違う爆発だな」
「今回は榴弾だ。形成炸薬はミノすけに置いておく。小物はそなたが蹴散らせ」
 第一分隊で唯一それぞれに通信機を持つのはこの二人だけで、それがかつてのコンビネーションを保てる秘訣だった。速水は処分を受けて以来、黒く染めていた髪を青に戻し、口調や服装もワイルドな感じに変化した。まじめで温和な彼が豹変したのは士魂号を奪われた事への反発だと周囲は思ったが、自ら理想としていたスタイルをやめたのは、復讐を遂げて燃え盛るラボから脱出した頃のハングリーさへの回帰と改めて舞を守る決意の現われだった。
「友軍はおそらく…この小隊が無力になったと思っておるが、決してそうではない。火力と防御は下がったが、市街戦は的が大きいほうが不利だ。足が速くても、姿が丸見えでは移動先を簡単に読まれる。しかし、今は都市においては自転車よりも小回りが効き、私は来るまでにこの街の地図を頭に叩き込んだから、いきなり実体化したような連中に遅れは取らぬ」
「さすが、舞。これでザコの突撃の援護を絶ったから、後はノコノコやって来た事を後悔させてやるだけさ」
「厚志、これで我らは戦術で優位に立ったが、くれぐれも向こう見ずになるな。勇気と無謀とは違うと…知れ」
「わかってる」
 速水は舞が示す路地を進み、小型幻獣の部隊の背後に出た。ゴブリンの群に対し、おおまかに狙いをつけると、榴弾を発射する。着弾して炸裂すると、一度に五体が吹き飛び、続けてベストから弾を出して装填すると反転を始めたゴブリンの辺りに発射すると群の大半が倒される。
「厚志、リーダーが残っておる。トマホークに気をつけろ」
「ヤバいな、今目があった。ヘタすると、首を飛ばされそうだ」
「冗談を言ってる場合か。エアバーストを使え」
「死のスーパーボールだな」
 舞の指示通り空中炸裂弾を装填すると、ゴブリンリーダーに間合いを詰められる前に発射する。腕の構造上の問題で上手から投擲できないゴブリンリーダーは障害物の多い場所ではトマホークを当てにくいものの、逆にグレネードは距離が近いと信管が作動しない欠点があるので、素早く攻撃した。バウンドする効果のある弾丸は標的の手前で真上に跳ね、その頭上で炸裂すると確実に破片を浴びせて一回り大きいゴブリンを倒す。
「一体討ち損じておるぞ。まったく…」
 皮肉にも制圧射撃で陣形が崩れたせいで群から孤立したゴブリンが出ており、残った一体が舞に捨て身の突撃をかけてくる。小型幻獣にRPG−7を使うのは勿体無いし、当てるのも難しいので使わず、舞はサイドアームを左手で抜いた。バレルもストックも切り詰めたショットガンは接近戦に有利で、彼女は安価で軽量な水平二段式を用意していた。ゴブリンがダッシュからジャンプに移行しようとした瞬間に舞が撃つと、鹿弾と呼ばれる丸い九発の鉛弾が降り注ぎ、ゴブリンの頭部を吹き飛ばした。
「舞!無事か?」
「たわけが!12番ゲージのリコイルがどんなものか知っておるのか、片手でだぞ」
「舞、どうしてすぐに弾の補充を?」
 速水が拳銃を抜いて駆けつけたときには既にけりがついており、舞はバレルをオープンにして撃ち終えたショットシェルを捨てていた。
「こっちのバレルはスラッグだ。ザコはバックショットで充分だ。行くぞ」
「…了解」
 若宮は変化した速水を男らしくなったと解釈し、日頃から話しやすく感じていたので、命令も舞より速水に伝える事が多かった。
「厚志、どうした?」
「斬り込み隊と合流しろとさ」
「…壬生屋達か。あやつらも、銃も持たずによくやる」
 二人は狙い撃たれても反撃できない瀬戸口達を思い、小走りで合流地点に向かった。
「おーい、バンビちゃん」
「そんな名前で呼ぶんじゃない。殴られたいか」
「お待ちしておりましたわ」
「早速だが、荷物を持ってもらおう」
 指示された車のショールームまで来ると、瀬戸口達が先に来ており、それぞれ同性に弾薬を預ける。
「皆のもの!これからミノすけを狩りに行く。瀬戸口、居場所を聞け」
 一人当たりの負担が減ると、舞は宣言する。壬生屋は舞が仕切るのは不愉快であったが、第一分隊で最も火力が高いのは舞なのでミノタウルスを倒すには舞なしでは考えられなかった。友軍が交戦してる場所を横切ってもナーガやゴルゴーンが相手の場合は速水が挨拶程度にグレネードを撃つ程度で、ザコとの交戦は避けてできる限りミノタウルスに接近する事にした。
「あの調子だと、戦車くらい倒してるかもしれぬ」
 舞はオプティカルサイトのレンズに写ったミノタウルスを発見する。
「舞、どこで迎え撃つ?」
「先回りして、砦から仕掛けよう」
「おい、砦はおおげさじゃないか?めったに使わない歩道橋もこんな使い方があるとはな」
「見晴らしが利き、様々な方向に射撃が可能ですから…天守十得に適ってます」
 四人は急いで交差点に到着すると、歩道橋に上ってその中央に陣取る。
「見えたぞ!まず厚志から撃て」
 舞は歩いてくるミノタウルスに対して、最初に無防備な状況を作らないと効果的な攻撃はかけれないと判断し、速水に命じる。
「瀬戸口、対装甲弾だ」
「当たるのか?距離的にきついだろ」
 士魂号でも手ごわい相手に対し、最も強力な弾丸でミノタウルスの膝を攻撃しようとランチャーでは面射撃しかできない距離から撃つが、ミノタウルスからやや離れた場所に着弾する。
「今度はペイント弾だ、急げ!」
「こ、これでいいのか?」
 速水は一瞬何か閃いた様子で渡した肩掛け鞄から夜間には光ってマーカーの役目もある特殊弾を取り出させると急いで装填し、前弾から弾道の誤差を修正して発射すると、ミノタウルスの顔面に命中し、視界を奪う。
「でかしたぞ、厚志」
 舞はミノタウルスが立ち止まった隙を逃さずHEAT弾を発射すると右の肩口に命中して右腕を吹き飛ばした。
「芝村さん、横風を計算に入れてませんでしたね。次は急所に当ててください」
「そんな事言ってる場合か!」
「反撃されるぞ!」
「何してる!早く散開せよ」
 ペイントに目潰しの効果がなかったのか爆風で流れ落ちたかは幻獣の正体と並ぶ謎であったが、飛び道具で反撃してくるのは確かなので急いでその場から逃げ出す。
 約二十年の寿命を持ち、破壊と殺戮の限りを尽くす幻獣は片腕を失ったくらいで怯む事無く反撃に出る。その場に踏ん張るような動きと共に腹部に寄生させた多数の小型幻獣が分離し、速水たちに向かって高速で飛来する。生体ミサイルとも呼ばれ、着弾と共に酸を撒き散らす飛び道具は戦車にも多大なダメージを与えるほどで、上から見るとロの形をした歩道橋のミノタウルスの正面に当たる一体に命中すると、ハチの巣のようになって半壊する。
 速水と瀬戸口は歩道橋から歩道に降りようと懸命に走り、生体ミサイルの追尾には引っかからなかったが着弾の余波を受けそうになったので階段の途中から一斉に飛び降りる。その高さは建物の三階に匹敵したが、第六世代の彼らはまったくダメージを受けなかった。
「おい、電柱を倒せ!一時的に注意を逸らせられるぞ」
「いい案だ。舞、これからチャンスを作る!」
 瀬戸口にも軟標的が中心の初速の遅い兵器で人型戦車と拮抗する幻獣に致命傷を負わすことができないのが分かるので、奇策で翻弄するように速水に告げた。電柱ならミノタウルスと並ぶ高さなので、倒れてこられると妨害になるのは必至との結論に達し、舞に連携するように言うと、電柱の根元めがけて発砲する。
「壬生屋、ロングノーズだ!急げ」
「待ってください、安全キャップを抜かないと…」
 下に降りずに奥の歩道橋に渡った彼女たちは、姿勢を低くしつつ、再び狙い撃とうと準備していた。
「ええい、面倒だ!アイアンサイトを使おう。おお、厚志…頼むぞ」
 舞はオプティカルサイトをはずしていると速水から通信を受けたので、手すりに肘を置いた状態でRPGを構えた。電柱がミノタウルスに向かって倒れ、それをミノタウルスが払おうとした隙を見逃さず、ただちに発射する。点火されたロケット弾は一秒も経たない内にミノタウルスの胸元に命中し、弾頭のモンロー効果によってたやすく貫通してそのまま倒れると直立二足の幻獣は消滅する。
 士魂号があって一対一なら難なく倒せる敵も定員の少ない分隊の大半の兵力でなんとか仕留めると、再び四人は集合し、側面から敵を叩こうと軍勢の中で戦力の要となる幻獣を探す。
「お前さんは、視野が狭い。空も見ることだ。あっちにきたかぜゾンビがいる。そのバズーカなら倒せるだろう」
 指揮車も車両が変わった為、設備が低下して幻獣の位置が正確に把握できない事態に陥るが、皮肉にも元オペレーターが若宮の指示を仰ぐ事無く次なる目標を見つけた。
「これはミサイルではないが、よく狙えば一発で撃墜も出来ぬ事ではない。元はヘリだからな」
「舞なら、きっとできる」
 四人は友軍の交戦位置を避けつつ、きたかぜゾンビを撃てる距離まで進むが、友軍に合わなくてもゴブリンとヒトウバンの部隊に遭遇してしまうとそれぞれが撃退し、なんとかホバリングしてるきたかぜゾンビの背後から攻撃できる位置にたどり着く。
「小さな獲物を追うあまり、自ら危険な状態に陥るとは…なんと愚かな事か」
「で、誰が狙われてるんだ?おい、田辺と滝川じゃないか」
「それなら、挟み撃ちにできますね」
「何言ってる。状況を見ろ、ビルごと吹き飛ばされそうだ。攻撃ヘリ相手に、ライフルと機銃だぞ。正気じゃない」
 誘導がなかったにも拘らず、仲間のピンチに駆けつけれたのは奇跡の僥倖に等しかった。
「イトコ殿め、地対空ミサイルを宛がってくれれば、これほど緊張せずに済むのに・・・滝川よ、横風が来ないよう祈るがよい」
 いくら天才でも、一刻の猶予がないとなると思わず口の中が乾き、仲間のためになんとか腕が下がらないように力を入れ、仰角を維持して二重反転ローターを持つ機体と有機的に結合した幻獣をサイトに収めるとRPGを発射する。残心するほど集中しただけあって見事に命中して爆発すると、元の残骸より見事に四散する。
「何だ、滝川の援護?たわけが、私が…たった今、あやつらを救ったのだ。指示が遅いぞ」
「芝村さん、私たちの協力があった事を忘れないでください」
 遅れて入った通信に対し、彼女たちは以前とは正反対の意見を述べる。
「こっちの分隊が集合するという事は…重火器チームが討ち漏らした幻獣を狩るんだな」
「そういう事だ…俺達は戦場の蛭に過ぎない。ハエですら飛べるのに…地を這って、傷ついた幻獣にへばりついて血を啜るんだ。人間のテリトリーに入ったら、生きて帰れないことを思い知らせてやる」
 敵陣の奥だけあって荒れた町並みを眺めて瀬戸口は滝川たちが来るのを待ち、速水は舞のように大物を狩れない武器を手にシニカルな表情で呟いた。

−To be continued−

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