5121戦車猟兵小隊
素肌者かく戦えり2


全年齢
Written by 瑞雲





 第一分隊、滝川と田辺の場合

 元2番機のパイロットである滝川はようやく閉所恐怖症による密閉されたコックピットでの精神的プレッシャーも慣れてきた矢先に小隊が激戦地に投入され、戦闘で機体が大破して失われて以来、士魂号に乗ることはなかった。ウォードレスはおろかスカウトの突撃銃よりも弱い旧式の武器だけで小型幻獣狩りの任務を命じられていた。
「なあ田辺、俺…もしスカウトになる時は可憐のストライカーDを着てみたいと思ってたんだ」
「ストライカーって、対戦車戦特別型の事ですね。あれって、運動性が低いらしいですから、私達の任務に合いませんよ」
 スカウトのサブマシンガンと比べてかろうじて命中精度と射程で勝る軽機関銃を持たされていた。種類はベトナム防衛戦で米軍が用いて改良型も登場したM60の初期型で、兵としては小柄な彼には重く、ベルト給弾ゆえに長時間の射撃の際には給弾不良が起きる可能性が高く、弾薬手として元整備士の田辺が付けられた。彼女は家が貧しく不幸に見舞われがちなので、影でチキンと呼ばれるあまり正面に出ない兵が最前線で不慣れな戦いをする際の付き添いに命じられたのは文字通り貧乏クジだと囁かれた。弾薬箱に入った予備の弾帯に改良型に比べて重心と二脚が分離されてないので余分に重い銃身を交換用に携行するように決められ、その銃身も取手がないので熱くて交換できない有り様で石綿の手袋という余分な荷物が必要で、小隊が処分を受けてからますます腹が満たされない彼女には荷が重かった。唯一の救いは援護射撃と自衛用に持たされた64式小銃とM60の弾薬に互換性があることくらいだった。第五世界の64式小銃はサイトからセレクターに至るまで簡素で実戦的な作りであったが、女性兵士向けに少しでも軽くと特徴的な二脚とショルダーレストが取り外されていた。例え日本人にあわせて作られた自動小銃でも、学兵の対幻獣兵器からはずされた小火器なので心細さに変わりはなく、いつタライが落ちても平気と冷やかされた古い鉄のヘルメットではレーザーを防ぐ事はできず、目に付く青い髪を目立たなくする効果以上は期待できない。それでも、彼女は懸命に滝川の後に続く。
「でも、リニアキャノン二門だぜ?すごいじゃん。今なんか、制服姿でこんな銃一丁だ。カッコわりーよ」
「私…滝川さんの横顔素敵だと思います。この前の射撃訓練の時、そう感じました」
「へへっ、なら…今日はバリバリ撃つぞ」
 二人はビルの屋上から離れた幻獣に向かって攻撃するウォードレス兵を尻目に更に先に進み、若宮が言っていた交差点に着くと砲弾か生体ロケットの炸裂で出来た道路の穴を見つけて姿勢を低くしながら接近すると、塹壕のように使うために二人でそこに入る。
 充分な深さやスペースではないが、攻撃に当たるとひとたまりもない二人にとっては頼もしい陣地で、高射機関砲でどんどん撃たれながらも数に任せて突っ込んでくるゴブリンをなぎ倒そうと、滝川は二脚を利用して銃を地面と肩に預けて田辺に弾帯に手を添えさせると安定した姿勢で射撃を開始する。米軍の機関銃にしては連射速度が遅く、比較的コントロールしやすいので狙っている範囲に効率的に弾をバラ巻き、ゴブリンを倒して行く。一気に五体ほどが消えると、辺りに威嚇するような甲高い声が聞こえなくなる。
「ゴブリンリーダーです!」
「ヤベェ!投げてきた」
 田辺はゴブリンの群にいるひときわ大きな個体を見つける。そして、滝川がそれを確認した瞬間、その長い手を水平に前に振ったかと思うとトマホークがカーブを描いて飛んでくる。二人はすぐさま穴の中に伏せて飛来する手斧をやりすごした。
「位置を知られたな。どうする?このままじゃ穴から顔も出せない」
「大丈夫です。こっちも、相手のいる方角が分かったのでこのままやり返せます」
「このままって、どうやって?」
「ここに来る途中で拾いました。ピンも付いたままです」
 決して勇敢ではない滝川に対し、田辺は冷静に励ましつつ、道端で見つけた手榴弾を渡す。
「戦闘が終わったら、不発弾探しが待ってるのに、もう味方の落し物を見つけるなんて運がいいな。でも、もし勘付かれて後退されたら?」
「それは、まずありえません。幻獣は死を恐れないし、ゴブリンリーダーは兵士を生け捕りにして敵の目の前で惨たらしく殺すのを好みます。きっと、今頃はここに突撃してきてるので、もうすぐ…」
 滝川は手榴弾が一個しかない事にプレッシャーを覚えるが、田辺は双眼鏡代わりのオペラグラスで身を屈めたまま穴の外を見ながら言った。
「やるしかない…やるしかない!」
 滝川は震える指先でなんとか安全ピンを抜くと、仰け反ったままの姿勢で手榴弾を投擲した。生身でウォードレス兵用のを投げてもあまり飛ばないが、防御用の乙型だったらしく爆風と多くの破片でゴブリンリーダーを吹き飛ばした。
「やりました」
 田辺は銃を構えたまま身を乗り出して、確認する。
「ホントだ、ゴブリンの群は全滅してるな。奥には大きいのがいるだろう。いつまでも同じ場所にいるのは危険だ。そろそろ出よう」
 田辺に言われて滝川は再び銃のスリングを肩にかけると、先に穴から出る。友軍の方が火力で勝るのに軽装の自分たちが前に出るのは理不尽に思えたが、戦区内で戦線を分断している軍勢を攻めるため、壊れた建物にそって二人は注意深く進む。
「滝川さん、危ない!」
 道路の上に散乱して見通しが悪くなった周囲を見回しながら歩いていた田辺は、左側の粉塵が舞う一帯に巨大なトカゲのようなシルエットが見え、頭部に赤く光る点を見つけると、そのナーガが前を歩いている上官を狙っていると直感し、即座に知らせる。
「うおっ!」
 声が聞こえた頃には、既にナーガの額の目からレーザーが発せられた後で避けきれないと思えたが、なんと滝川は瞬時に側転を行い、レーザーの一撃から逃れた。
 田辺は一瞬あっけに取られるが、腰まである高さの大きなコンクリート片を遮蔽物に膝撃ちでナーガに向けてライフルを撃ち始める。セミオートで撃つのでよく当たるが、制式のSMG程度の威力しかないので顔面に命中させて怯ませる効果しかないが、それが見えていたのか後方でビルの屋根から屋根へと前進する友軍の一人が高射機関砲でナーガを仕留めた。
「助かったぜ、田辺。こんな時の為に、緊急回避をマスターしたんだ。背が低いから目立たないと思って油断してると即アウトだな。この借りはきっと返すぜ」
「まさか、ナム戦記でやってたアレの事ですか?気をつけてくださいね」
 土壇場でもテレビの戦争ドラマのようにかっこよさを求める滝川を見て、田辺は内心呆れる。
「よし、位置でこっちが優位に立とう。ここから上がろう」
「すごい壊れ方ですね。このビル中身が丸見えです」
 進みにくい道路から、床が平らで見通しが利く正面の壁が全部吹き飛んだオフィスビルに注目し、滝川はその階段を上り、ナーガが来た方向を警戒しながら進むと田辺も後に続く。
「見ろ、キメラがいる。狙い撃ちにしてやろう」
 ふと反対側に視線を移すと、滝川は四足で胴体前面に3つ、サソリのような尾の先端に1つの頭を持つ幻獣が友軍の方に進んでいるのを発見する。マシンガンを床に置き、伏せ撃ちの姿勢を取ってキメラに狙いをつける。士魂号の時でも手ごわかった幻獣にどれだけダメージを負わせれるかと考えていると、田辺が隣に伏せて射撃が始まっても弾帯が踊らないように手を添えたので、連射速度が遅いのを生かして4、5発づつのバースト射撃を開始する。人差し指で微妙に連射を区切る事でムダ弾が出なくてコントロールが向上し、頭と分類されながらもレーザーを発射する兵装の役割しかしない3つの頭を攻撃していく。
「ダメだ、ビクともしない!」
「こっちを狙ってきます。急いで!」
 敏捷で武装の割にコンパクトな中型幻獣は霧雨のような攻撃に対し、すぐに反応して体とすべての頭を滝川達の方角に向けた。複数の中口径レーザーに狙われたら、同じフロアに潜んだとしてもその攻撃から逃れられないので、田辺と滝川は素早く立ち上がると階段めがけて走ると三階に駆け上がった。
「じっくり狙ってたら、反撃されてイチコロだ。思い切って、弾幕を張ろう。田辺も撃ち捲くれ」
「この際、勿体無いとか言ってられませんね」
 滝川はスリングを肩に掛け、右手でグリップを持ち、左手で弾帯を支えて腰溜めで撃てる姿勢を取り、田辺も人差し指でセレクターをフルオートを示す連発の略のレに切り替えた。
「滝川さん、その体勢で掃射じゃ当たらないんじゃないですか?」
「大丈夫、右目の視線と銃口の向きが大凡ずれてなかったら、あさっての方向には飛ばないぜ。それより、上半身ひねりと移動射撃はマスターしてるか?」
「…なんとか」
「じゃあ、一斉に行くぞ」
「行きます!」
 二人は踊り場から三階フロアに飛び出すと、走りながら4つの頭を動かして二人を探すキメラに向かって掃射する。位置が高くなったのと、弾がバラ巻かれた範囲が広いので、多くがキメラの背中に命中する。
「こっちに階段はあるんですか?」
「きっと、非常階段があるはずだ。例のマークを探せ」
「ありました!でも、カギが…」
「見ろ、開いたぞ」
 キメラが反撃する前にフロアを走りきって突き当たりに来ると、滝川はさも当たり前のように非常階段のスチール製のドアを撃ち抜いて階段を上っていく。危機的状態とはいえ、あまりのワイルドさにあっけに取られつつも、田辺は弾装を交換しながらその後に続く。
「何階に行くんですか?」
「この際屋上だ、各フロアを巡るのは凡人のすることだ」
「なんか、芝村さんみたいですね」
「普通じゃ勝てないだろ。でも、やっぱり…火力の差がありすぎる」
「そうですね」
 二人はなんとか屋上にたどり着くと少し離れた位置から下を見下ろす。キメラはレーザー砲が多い割にセンサーは少ないので二人を見つけれず、デタラメにレーザーを撃っていた。
「なあ、確かテイルレーザーは仰角を大きく取れるし、特に強力だったな。アレを撃たれるとこの位置でもヤバい。やっぱり、こっちにも強力な一撃がないと…」
「あっ…忘れてました」
「ライフルグレネードか…」
 滝川がマシンガン以外余分な装備を持ってないことを悔やんでいると、田辺がライフルで手榴弾をより遠くに飛ばそうと言う発想から生まれた小振りのロケット弾のような形の兵器を取り出す。かつては空砲を用いて銃床を地面につけないと発射できなかったが、改良されたアダプターによって弾丸と擲弾が干渉しないように配慮され、適度に発射ガスを逃がす穴が存在して肩付けでも撃てる様になっていた。
「俺がヤツの目を引きつけておくから、その隙に撃て」
「それじゃ、滝川さんが…」
「言ったろ、借りは返すって」
 頼りになると思われた兵器も一発しかなくては、確実に当てれるとは限らないので、滝川は自ら囮になると田辺に告げる。彼は自嘲気味に短くなった弾帯を一瞥すると、手すりに銃身を載せて重さを分散させ、堂々と立射でキメラに発砲する。一歩も動かずにその場で引き金を引き続ける滝川を見て、田辺は急いでライフルの銃口にアダプターをつけるとライフルグレネードを装着し、ヘルメットを脱いで一度深呼吸すると腹ばいになって伏射の姿勢を取り、キメラが滝川を攻撃しようと一瞬動きを止めた瞬間に発射した。ロクに訓練していない兵器でも、奇跡的に命中するとその爆発でキメラの胴体を撃ち抜き、数秒後に消滅した。
「田辺、お前は幸運の女神だ!」
「滝川さんが信じてくれたからです。いいことは、きっとあります」
 滝川が感嘆の声を上げると、田辺は不器用に眼鏡の位置を直しながら微笑む。勿論、田辺の一発で倒せたわけでなく、ゲリラ戦で何度も小銃弾を命中させてダメージを蓄積させていたのも要因のひとつであったが、結果的に倒せたので二人にはどうでもよかった。
「銃が撃てない状態ですよ。今のうちに新しい弾帯をセットしましょう」
「ああ、すっかり忘れてた」
 田辺に言われてから気付いた滝川はM60を床に置くと、ストック右側にあるカバー・キャッチを押して機関部上面のフィード・カバーを空ける。そこに田辺が百発の弾薬が繋がるベルトの先端を弾薬が流れるフィード・プレートの上に乗せ、一発目をフィードプレート・グループの中に押し込むと、滝川がフィード・カバーを閉じた。
「ヘリの音だな、航空支援か?」
「きっ、きたかぜゾンビです!」
 滝川はキャリング・ハンドルを持ってM60を持ち上げていると、空から爆音が聞こえたので、それとなく田辺に聞く。
「どっ、どこだ?」
「そ…そこです」
 急いでスリングを肩に掛けてすぐに撃てる状態にして滝川は空の幻獣がいる場所を尋ねたら、田辺は呆然としながら指差して答える。
「いつのまに、こんな近くに…」
「この距離でロケット弾とか撃たれたら、ビルごとこなごなですよ」
「ちくしょう、動いたら撃たれそうだけど…ここで撃たなきゃ、逃げるチャンスすら作れやしない…」
 二人が視野をあげると、屋上から石を投げたら当たりそうな位置に友軍のヘリの残骸に寄生する幻獣が悠然とホバリンクしていた。なんとか危機を脱したのに立て続けに強敵に遭遇した事で戦場の過酷さを思い知り、ローターが巻き起こす風が顔に当たって二人の微かな望みも吹き飛ばそうとしていた。
「田辺、50メートル何秒だ?」
「無理ですよ。背中を向けた途端、一瞬でハチの巣にされます」
「ゴメンな…遠坂と同じ重火器チームなら、お前も…」
「遠坂さんの家で弟たちがお世話になってますけど、私は…」
 滝川は立ち尽くしたまま、空からの脅威を考慮に入れてなかった事を田辺に詫びると、彼女は絶望的な状況ながら日頃言えない事も言ってしまおうと思った。しかし、言い終わらないうちに自分たちを見下ろすきたかぜゾンビが爆発する。
「芝村さん、助けてくれたんですね!」
 田辺はインカムに通信が入ると、舞が肩撃ち式対戦車ロケット砲できたかぜゾンビを倒した事を知る。
「田辺、危機一髪だったな。そういえば、さっき何て言おうとしたんだ?」
「何でもありません。りょ…了解」
「この展開からして…大体、分かる。速水たちと合流だろ?」
 滝川は田辺がごまかそうとしていた事から、既に新しい命令へと関心が移っていた。
「正解です。まだまだ強い敵がいるので、力をあわせないと太刀打ちできません」
「確かに、その通りだけど…この調子だとエースはほど遠いな。懲罰部隊じゃ砲撃も要請できないし、ここから生きて帰れるかどうか…」
「とにかく、今日生き残りましょう。明日はきっといい日です」
「そうだな、生き抜けばいつかはヒーローになれるかもしれないしな。行こう、田辺」
 軍勢の中には士魂号でも手ごわい幻獣がいると思うと、思わず悲観的な言葉が出たが、田辺が前向きな言葉でさわやかに励ますと、少年の心に再びガッツの灯が点り、勇ましい足取りで仲間の元に向かわせた。

−To be continued−

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