5121戦車猟兵小隊
素肌者かく戦えり6


全年齢
Written by 瑞雲





 第二分隊 原さんたちの場合

 原素子は小隊の処分を発表されたときに最も衝撃を受けた人物だった。人型戦車とともにプレハブ校舎に来て、整備班班長としてパイロットよりも士魂号の事を知り尽くして些細な箇所までわが子のように手をかけてきた彼女にとってそれがなくなることは存在意義を否定されるに等しかった。ハンガーから三機の人型戦車とメンテナンス機器のすべてが持ち去られ、ガラガラになったテント倉庫には寮を追われた学兵が転がり込んできてねぐらのように使われ始め、寮以外から通ってる学兵も脱走の防止と連帯感を高める意味で全員が寝泊りすることが決まって一階が男子、二階が女子に割り当てられ、寝具は善行の趣味の影響でハンモックとなった。そして、整備兵としての仕事は女子校と比べ、明らかに見劣りする数も少ない戦闘車両は複雑でデリケートな人型戦車に比べてあまりに幼稚に映るので、彼女は触る気にもなれなかった。自らも前線に出ることとなり、元々ラインオフィサーではないものの一応士官なので車両を宛がわれたが、それを見た時に彼女の士気は更に下がった。戦車に劣らぬ火力を備えた自走砲と言えば聞こえはいいが、その実はとっくに軍の制式からはずされた無反動砲を積んだジープだった。ただでさえウォードレスもないのに、不正規軍がテクニカルで戦うのは幻獣の手に落ちる国で見られる最後の光景に近いので不満に感じ、部隊の通信網も貧弱になって分隊を指揮するのは元スカウトでも気心の知れた若宮でなく、あまり話したこともない来須であった事にも納得いかなかった。それでも一応車長と106mm無反動砲M40の射手を担当していたので、中型幻獣を倒すことに発言力を得る可能性を見出し、他の重火器を担当する学兵が筋力を鍛えている間、彼女はM40が実戦配備されてた当時に備えられていた無反動砲と同じ弾道のスポットライフルよりハイテク化したレーザー測遠器を活用して無反動砲の弱点である命中率の低さを補おうと、首から提げてあちこちで様々なものの距離を測って目標を的確に捕捉する訓練をしていた。もしもの際は運転もしなくてはいけない必要があったが、補給車に比べれば大したことないし、そんな状態にはなりたくないと願っていた。
「森さん。くれぐれも肝心なときにエンストしたり友軍を轢かないでね」
「先輩もいきなり砲撃しないでくださいね。その大砲…発射音、かなり大きいですから」
 なにげなく原にプレッシャーを与えれた森は運転を担当していた。彼女も処分の知らせを聞いたときは動揺したが、まじめな性格なので新しい仕事と原の分まで車両を整備した。運転を練習する際も戦闘時を想定してフロントウインドを前に倒すのが基本となり、顔面で特に目に風が直撃するので塗装や研磨作業時に用いる保護眼鏡を本式のゴーグルの代用にし、整備時に常に着用してる軍手をしてハンドルを握っていた。トレードマークであるバンダナも、過去のフランス軍の帽子のようなミスをしないように目立たない色を選んでいた。
「大丈夫デス。訓練の通りやれば問題ないでス」
 ヨーコ小杉は身長や褐色の肌など目立つ外見とは裏腹に整備兵の時も衛生官の手伝いや田代と並ぶ体格のよさから重いパーツなどを運ぶ際に重宝される縁の下の力持ちであったが、前線に出ることになってもそのスタンスは変わらなかった。装填手を命じられたが、歩兵のホルスターやマガジンポーチやバンダリアも彼女の手によって丈夫な布から作られたし、炊き出しや夜食の際にも粗末な食材からでも兵たちの腹と舌を満足させるものを出す工夫をするなどバックアップに務めた。彼女は日本人を自称するくらいなので、愛国心も相応で絶望的な状況に置かれても士気は高かった。
「はい、止めて!中型幻獣発見よ」
「中型って、ゴルゴーンですか?」
「ナーガよ…何?12メートルよ。戦車より長いじゃない。中型でしょ。ヨーコさん、榴弾用意して」
「ハイデス」
 後部席で立って砲身を持って体を支えつつ原はレーザー測遠器のレンズを覗いてあちこちを見回していると、窪地を挟んだ先の外周道路に幻獣を一体発見するとすぐ距離を測って、砲撃の準備をさせる。
「森さん、こっちは命中率が良くないからカウンターを食らう恐れがあるわ。囮になって」
「えっ!囮…ですか?」
「そうよ、車から降りてちょっとバリバリ撃っといて。その間にズドンといくから」
「先輩、はずさないで…くださいよ」
 原に言われるまま森はジープから降りると、手にしたAKのコッキングレバーを引いて近くの分岐点から斜面を下っていく。東側陣営で大量に生産された突撃銃は開発した国が消滅した今でも広く使われており、日本では外国人義勇軍で採用され、シンプルな構造のタフな銃なので一部の省庁所属の武装組織向けに派生型がライセンス生産されていた。森が手にしているのはAKMで、第5世界では最後のAKシリーズである。ジープのクルー全員がAKシリーズだったが、戦車兵の自衛用に準ずる銃身が短く折りたたみストックの仕様は原のみで、森は一般の固定ストックでスペアのマガジンも持たされておらず、一気にフルオートで撃ち切ったら目立たないように身をかがめて素早く移動し、砲撃の直後にジープに戻れればと考えていた。照準がぶれないように鼓動を抑えつつサイトに捉えてみると、ヒトウバンやゴブリンに比べて的が大きく動きも遅いことに気付き、狙えば当てれると思い、立射の姿勢で近くの樹木に左肩を預けた状態でナーガに向けて発砲する。斜面のせいで伏射ができなかったものの、木を利用して銃を固定しやすくしたのとフルオートのままでなく指きりバーストを二回行って弾幕が縦に伸びるを防ぎつつもより多く弾をばらまいて予想以上に命中させ、ナーガを消滅させた。
「うそ…」
 森はマガジンが空になるまで撃ったが、まさか倒せるとは思わなかった。レーザーを放つ側面の目やあわよくば足に重傷を負わせて動けなくしようと思っただけなのに倒せたので驚いていた。本当なら、フルオートですぐに撃ち尽くしたのでバレルの熱が木製のハンドガードに伝わってきてその加熱困ってしまうはずだが、彼女は仕事の時と変わらず軍手をしていたので左手の熱さ悩まされることなくそのまま車まで戻ってきた。
「森サン、スゴイデス!」
「そんな、夢中で撃っただけです」
「きっと、相当弱ってたのよ。どうせ遊兵だと思うけど突破されてるかもしれないわね。この辺りの部隊は押されてそうだから、加勢しに行くわよ」
 小杉は森を称えるが、原は無反動砲を撃つチャンスを奪われたせいもあって冷淡な反応を示し、すぐ発車するように命じる。原が遠くて狭い視野なのに対し、小杉は左の後部座席から側面や後部といった広い範囲を監視し、索敵と同時にヒトウバンのような素早い幻獣を警戒していた。彼女が手にする銃はハンドガードとストックが一体になった木製の直銃床でかつての歩兵用ライフルを思わせるデザインだったが、民間用でなく山岳警備隊向けに作られたれっきとしたAKシリーズだった。鉄の消費を減らすのとセミオートでの命中率を上げるためと言えば聞こえはいいものの、AKより旧式のSKSに30連マガジンをつけたような外見は時代遅れに映り、明らかに縦割り行政や省庁の縄張り意識を象徴する品で、セレクターの位置がトリガーに近くなったのと全長を抑えつつもライフルグレネードチューブとマズルサプレッサーを兼ねたものを標準で装備している点以外は目を見張る箇所はなかった。曲銃床ゆえにフルオート時のマズルの跳ね上がりがきついという欠点から、それを押さえ込めそうな彼女に割り当てられたのだった。
「そっちの木の側に止めて」
「撃つのデスカ?」
「決まってるじゃない」
 原が止めるように命じると、森は進行方向から目立ちにくい位置に車を止めた。小杉は発射の際のバックブラストの邪魔になるものがないか見回し、原はやや右側に砲身を向けると照準機をレーザーで測ったとおりに調整し、無反動砲を発射させた。榴弾砲なみの大きな砲声と共に砲弾は建物の隙間を一気にすり抜け、前線に向かい、しきりに攻撃して友軍を足止めしてるゴルゴーンの近くに命中した。榴弾だったので爆風と破片を撒き散らし、ゴルゴーンに致命傷を負わせ、側にいたナーガも飛散した破片に切り刻まれて動かなくなり周りにいて吹き飛ばされた無数のゴブリンよりやや遅く霧消する。
「大物に当たりましたか?」
「榴弾じゃ倒せなかったけど、周りのザコは確実よ。ほら、すぐ移動!位置がばれるわ」
 耳をふさいで伏せていた森は射撃が終わったようなので、原に尋ねた。しかし、よい返事どころか次の命令を出され、小杉がレバーを引いて閉鎖器を開いてクロムキャスト方式特有の側面に無数の穴の開いた有孔薬莢を出すのを尻目にすぐハンドルを握ってアクセルを踏む。森が急発進してしばらくすると、砲撃した場所に生体ロケットが着弾して爆発した。原に戦車の主砲が何度か発射する音がする方角に行くように言われると、遠目に数両の戦車とキメラが戦う光景が見えた。自動装填装置によって走行中でも迅速な射撃が可能なL型に対し、機動力と攻撃力を備えた幻獣はカニ歩きやジャンプや逆に胴体を地に伏せて攻撃から逃れつつ、三つの頭からそれぞれの方向にレーザーを放って戦車小隊を翻弄する。
「ヨーコさん、HEAT弾」
「ハイデス」
「先輩、直撃で倒すんですか?」
「破片じゃ、しゃがまれたら効果が下がるわ。不意打ちなら充分当てるチャンスはあるでしょ」
 森は一応目立たないように瓦礫の影にジープを止めると、原が装填を命じる。小杉が装甲目標向けの弾薬を装填すると、森は原の真意を測りかねるが、距離を測り終えた原はやる気だった。狙いを定めつつ戦車の砲撃が途切れてキメラが反撃に転じようとする瞬間を待ち、照準器の中心で静止したのを逃さず一気に発射する。バックブラストが盛大に粉塵を巻き上げると共にキメラの側面に着弾するとモンロー効果によって装甲があっさり打ち抜かれ、数千度のジェット噴流が貫通して反対側まで激しく流れると大穴が開いて崩れた胴体が燃えながら頭部や脚がだらしなく伸びて消滅する。
「やりましたね、先輩」
「私達が撃たなくても、誰か当ててたわ。それより、もっと友軍の前進を助けないと…」
 森は感心するが、原は自分達が来なくても倒せることが分かったし、もっと苦戦してる兵がいると確信してたので、家屋の倒壊が酷くて散発的に銃声がする場所に車を向かわせる。
「止まって!そんなので走り回ったら、すぐ狙い撃ちよ」
「何よ、援護に来たって言うのに…何様よ」
「元・戦車兵、霧島惟」
「私は、元整備班長、原素子よ」
 兵たちが壊れた建物の影から攻撃してる一画に入ると、すぐ元気の良さそうなポニーテールの女子が飛び出してきたので、森はすぐさまブレーキを踏む。原はなんとか幻獣が見える位置まで行きたかったのに、突然止められたので面白くないようですぐ反論するが、戦車が攻撃を受けたあげく横転して煙を出し始め、爆発炎上する前に逃げ出して突撃銃だけで戦う戦車兵と猟兵として名ばかりの自走砲で戦う整備兵は、何か通じるものがあったようで、衝突することはなかった。互いに敬礼すると、すぐに連携を取るための話し合いを始める。
「どうして、後退しないの?」
「スカウトもどんどんやられてるから、逃げたら戦車が孤立するわ。それより、手榴弾でもない?」
「悪いけど、ないわ。あるのは大砲だけよ」
「無反動砲ね、それなら運べるから貸して」
「武器がなかったら、戦えないじゃない」
「負傷者が出てるの、別の学校の子だけど。後方に運んであげて」
「分かったわ、でも…戻ったら返してよ」
「任せて、大物を狩っておくわ。嶺子、麻衣」
 話がつくと、惟は部下のお嬢様系とロリータ系に命じて無反動砲をジープから下ろさせる。二人にかかると、小隊で最も重い兵器も長いだけで重さは苦にならずにあっさり運び出された。
「ヨーコさん、弾薬を」
「HEAT弾だけでいいわ」
 原が弾も渡すように言うと、前向きで好戦的な惟はあえて大物を倒そうと特化した弾を所望し、ウォードレスの力で生身ではやっと一発持てる弾も一度に二発運び、嶺子がもう一発持って行った。
「先輩、あの人達…うまく使いこなせるでしょうか?」
「重さは問題ないでしょうから、一人じゃ砲身の角度を維持するのが問題だけど、もう一人いるから支えれるし、装填にも一人いるから運用には問題ないわ。車両より目立たないから、逆に有利かもね」
 森が悩んでると、原はあっさりとその答えを出し、惟たちと入れ変わりにやってきた二名の男子を後部席に収容するため、助手席に移動した。
「大丈夫デスカ?止血点、ココデスヨ」
「ああ、ありがとう…助かります」
「隊長さん、これ駄賃ばい」
「班長よ、ありがたくもらっとくわ」
 小杉が乗り込んだ二人に応急処置を施してやると、学年が上の男子が原に礼をいい、米軍のM202A1をコピーした4連ロケットランチャーを与えた。森が車を走らせてる間、原は必死に無線を駆使してなんとか負傷兵を収容する衛生官のがいる最も近い場所を聞き出し、赤十字の描かれた軽ホバー輸送装甲車を見つけ、二人を預けた。兵器を貸した友軍の元に戻る道中では、小杉だけでなく原も銃身が短く折りたたみストックだが大きなフラッシュハイダーとフォアグリップを備えた東欧のAKを模した射撃時に保持しやすい黒一色のカービン銃を手にして車上で警戒に当たっていた。
「先輩、あれ新型の戦車ですか?」
「逆ね、旧型よ。米軍のお下がりのダスターだわ。今じゃ、向こうでも使わない対空自走砲よ」
 森はメカニックらしく、視界に入った友軍の見慣れない車両に興味を示すと、原が膨大な知識の中から正確に教えた。
「あんなのでスキュラに勝てるんでしょうか…」
「ハイテクとは無縁だけど、悲観することないわ。対地攻撃にも威力を発揮するわ。高射機関砲が二門よ、担ぐより安定してるから、当てやすいんじゃない?スカウトと弾薬が共通だし、発射速度が違うわよ」
「本土決戦デスヨ、何デモ使うベキデス」
「キャタピラだと足が遅いわ。大介、無事かしら」
 戦車不足の穴埋めと増えてきた小型幻獣対策に動員された破棄されない代わりに長年使われることもなかったM42対空自走砲を前線で目にすると、三人はそれぞれ違った感想を漏らす。
「いいから、早く行きなさい。あれに勝ってるのはスピードくらいなんだから」
 原がせかすと森は更にアクセルを踏んで元戦車兵の元に向かう。
「無事みたいね、大砲もあなた達も」
「ミノ助にも当てれたんだけど、動きについていけないのよ。結局討ちもらしたわ。でも、援軍が来たから後退できたの」
「旧式の戦車でしょ。来る途中で見たわ。物持ちの良さに感心しちゃう」
 惟と原が話していると、M7プリーストやM4シャーマンの火力支援型が105mm榴弾砲で近距離用装薬を用いた直射による砲撃でゴブリンの群を吹き飛ばし、集中砲火で中型幻獣も倒していた。米軍から給与されてからは日本にあわせてエンジンを変えただけで、主力からはずされると側面に幻獣の絵を描いて演習で仮想敵機を勤めていた。しかし、旧式でも軽敏でありながら充分な火力を備えてたので、生徒会連合に配備されてからは近代的な射撃統制装置とウォードレスで筋力を強化された装填手によって本来とは違う使い方で確実に戦果を上げていた。
「先輩、乙拠点で合流するようにと命令が出てます」
「火消し役が消防署で篭城?笑い話みたい」
「着いて行ってもいい?人手は多い方がいいでしょ」
「全員の席はないけど、それでよかったらいいわ」
 森の一言でジープに六人で乗ることになり、最短距離で向かう。当然、敵に遭遇することもあったが三人の突撃銃によって張られた弾幕で一時的に小型幻獣の前進を阻んでその間に猛スピードで突っ走る。
「森さん、見えてきた?」
「もうすぐです!でも、注意しないと味方の攻撃に巻き込まれます」
 消防署の位置はホースを干すための櫓を目印にするまでもなく、途切れることのない銃声と爆発音によって分かった。しかし、押し寄せるゴブリンの群とそれを蹴散らそうとする戦車の砲撃で横切るのが困難な場所である。それでも、止まるとレーザーか生体ロケットの餌食になるのでジグザグ走行で駆け抜け、すでに弾切れの三人に代わって原も揺れる車内から発砲する。
「きゃっ!」
「危ないデス」
「ダメよ、ブレーキ踏んじゃ」
 車体のすぐ側で爆発が起きると、森は思わず急ハンドルを切るが車体が横滑りし、そこに小杉が注意していたゴブリンリーダーのトマホークの弾道に入り込んでしまい、車体正面に命中する。ほとんどパニック寸前の森には何が起きてるか分からなかったが、金属音と車体に受けた衝撃で原はエンジンにダメージを受けた事が察知できた。トマホークがフロントグリルの真ん中に命中し、そのままエンジンを破壊して走行不能にした。
「みんな、すぐ降りて!燃料が漏れ出してるわ」
 徐行から完全に車が止まると、軽油の匂いを感じた原は叫ぶ。すると、ウォードレスの三人が無反動砲と弾薬を持って降り始め、小杉も砲弾を持って降り、森に続いて原が四連ロケットランチャーを持って降りる。
「先輩も来てください!」
「森さん!早くみんなと行って」
 たちまちレーザーが命中して燃え出す車体から離れてかろうじて人一人が隠れれるくらいの瓦礫の陰に逃れた原はランチャーを担いで敵を食い止めようとしていたので、森に頼まれても時間稼ぎをやめる気はなかった。きつく言われた以上、引っ張ってくる訳にもいかないので、森はAKを手に消防署に急ぐ四人の側を走りつつ、立ち止まっては銃撃を加えてゴブリンの列に銃弾をばら撒く。
「善行め、ちゃんと装甲のついた車用意してくれないから…こんな事になったじゃない。かっこ悪いったら、ありゃしない」
 原は部下でなく自分の方に幻獣の目を向けさせるため、ロケット弾を撃っては森たちと正反対の方向に移動する。彼女は気づいてないが、消防署に立てこもる友軍からも森たちの移動を助けるために援護射撃が行われており、中でも来須の対戦車ライフルがゴブリンリーダーやゴルゴーンを攻撃して指揮や陣形を乱していた。臨時拠点に限ったことではないが、熊本では人型戦車が踏み台に出来るくらいに屋根の強度と大きさが確保されているので、建物の中でなく屋根の上に友軍や第一分隊は集結していた。そこには迫撃砲も持ち込まれており、引き付けた敵を消耗させるのに効果を発揮していたが、火力が大きくて発射ガスさえ逃がせれば俯角も取れる無反動砲は心強く、それを運んできてウォードレスを着てない小杉と森も迎えに来た男子が担いで壁を登って屋根に引き上げられた。
「こんな事ならもう一台の整備、手伝ってあげたらよかったわね。あの子達帰りは運転する車ないじゃない。あっちのジープを動くようにしてたら茜くん達も活躍できたかもね。そしたら、私もこんな目に遭わずに済んだかしら。自業自得ね…」
 原はすでにロケット弾を撃ちつくし、ランチャーを捨てて小さな瓦礫の陰でなんとか伏せながら時折敵の方に発砲していた。むなしい抵抗を続けたところで、敵との距離は縮んでいく一方である。どう考えても時間の問題であったが、消防署から人影が飛び出すと、独特な発射音のする軽機関銃で最前列のゴブリンを次々なぎ倒しながら、原がいる所まで駆け寄ってくる。
「素子さーん!」
「若宮くん?」
 若宮は黒のタンクトップに都市迷彩のカーゴパンツに使い込まれたコンバットブーツといういでたちにMG1を持って原の前に現れた。滝川のM60より重くて連射速度も著しく早い機関銃も彼の腕力と習熟度を持ってすれば使いやすい銃のひとつに過ぎなかった。
「お迎えに上がりました。自分に付いて来て下さい」
「ありがとう、もうだめかと思ってたわ」
 元スカウトは原の手を引くと走り始める。ベテランらしく、やや姿勢を低くして障害物などを利用しつつ、目立たないように移動する。
「ご心配なく、班員も全員無事です」
「いいの?せっかく分隊が集合したのに、単独行動なんかして」
「マニュアル一辺倒では懲罰部隊なんて勤まりません」
「そうね、生き残らないと不発弾探しの人手が足りなくなるものね」
 なんとか消防署まで二人はたどり着くと、ドアや外階段は使えないので、砲火に晒されてない壁から上ることにした。筋力ではウォードレスを着た女子の新米学兵と遜色ない若宮も、流石に壁に引っ掛ける堅い指先のカバーがないと壁のぼりは困難に見えたが、いい具合に壁に空いた無数の弾痕に指をかけれたので、軽機関銃を持たせた原をおぶったままスイスイのぼっていった。
「いやはや、お前さんもただの軍人だと思ってたが…男だな」
「…奥様戦隊ってやつか」
 若宮が屋根の上まで来ると、彼とは正反対の男子が冷やかす。
「先輩、どうしてうちらの為に無茶したんですか!」
「車をダメにしたんだから、部下くらいは救わなきゃと思ったからよ」
「見テクダサイ!敵ガ逃ゲテイキマス。ワタシ達のネバリ勝ちデス」
 原は無反動砲が陣取ってる一画に向かい、敵陣の方を見ると損害が多く出た幻獣の群が撤退を始めていた。
「若宮くん」
「はっ!」
「見て、あんなに離れたところに指揮車がいるわ。私たちのほうが勇敢ね」
 敵陣と逆の方角に歩くと、原は若宮に話しかけて指差すとかつて警察で特型警備車の名で用いられてたボンネットなど前世代の雰囲気を残した今ではすっかり旧式のサラセン装甲車がはるか先に見えた。若宮はなんだかんだいって原は善行の事を思ってるのだろうと感じた。

−To be continued−

RETURN←

この小説に投票します・・・ , ZZPのTOPへ戻ります・・・


動画 アダルト動画 ライブチャット