《Possess heart・弐》

全年齢
Written by 瑞雲





「空中では…手をつながないか?」
「いいですよ」
「幸せ…だな」
 こうして俺達は騒動の中心となる場所のすぐ近くまで辿り着いた。いちいち廊下や階段を使うよりはるかに早かったのは琴音ちゃんのおかげで、力が強くなったせいか積極的になり、分かり合えたので自分に自信を持っている彼女が味方なら解決も目前に見えた。先輩も部室の前で俺達の到着を待っていたみたいだ。
「先輩、琴音ちゃんを連れて…」
「ははーん、あんたが藤田浩之ね」
「お前、誰だ!」
 騒動の中心となったクラブ棟の廊下はまだ日が高いのにもかかわらず、今は薄暗くて先輩だと思った相手は別人のようだ。そのシルエットにはまっすぐ伸びた耳はなく、俺と同じく完全に人間のなりをしていた。
「寺女の人みたいですよ、藤田さん」
 琴音ちゃんは猫の属性をそなえているので光の少ない場所でも見えるせいか、すぐに彼女の制服を確認した。状況からして他校生である事は予想していたがが、西園寺女子とは思いもよらなかった。しかし、有名なお嬢様学校の生徒が何の用だろうか?
「こんな魔法の暴走、私の術ですぐに封じてやるわ!」
 彼女もオカルトに精通しているのか、独特の儀礼に則った衣装をしている。黄色い衣を纏い、手には東洋風の剣に鏡と護符を携えている。先輩が西洋の魔術なのに対し、彼女は中国の道士で東洋魔術を心得ているのだろう。不思議なもので、流派は違うものの志すものが似ているせいか顔立ちも先輩にそっくりだ。
「悪いが、これはこの学校の問題だ!この学校には、先輩意外に人知を超えた力の持ち主もいるんだ。それに、俺も儀式に立ち会った以上…何もしないわけにはいかないんだ」
「私の力で…みんなを救って見せます」
 せっかく、事なかれ主義のサラリーマン教師や不祥事続きで怠慢な警察の力に頼らずにここまで来たのに今更投げ出すわけにはいかない。俺達は知ったか振りの女に向って決意を示した。
「お呼びじゃないのよ!力の差が分からないの?だから、私が姉さんに呼ばれたんじゃない!」
「だけどッ…!!」
 俺は勢いを見せれば相手も引き下がると思ったが、どうやら甘かったらしい。女は瞬時に間合いを詰め、俺に重い一撃を加えた。腹部にハンパじゃない衝撃が走り、痛みが広がると同時に相手が使い手である事が分かった。
「乱暴は止めてくださいっ!」
「お黙り!猫娘。少し強い程度じゃ、この来栖川綾香に勝てないわよ」
「何だとッ…!」
 しばらくくの字になっていた俺は、一瞬自分の耳を疑った。すると…この女は先輩の妹なのだろうか?先輩は物静かないかにも箱入り娘なのに、こいつは横柄で直情型のすぐ手が出る恐いタイプだ。まるで別人ではないか。きっと、現当主と愛人の間に生まれた娘で、先輩とは腹違いだから性格も違うのだ。
「しゃーーッ!!」
「琴音ちゃん、能力を使うんだ。目にもの見せてやろう…」
「はい…」
 俺がくやしいのと同じく琴音ちゃんも頭にきているらしくしっぽが波打っている。ここに来るまでに琴音ちゃんの力は信用に値するレベルと分かったので、協力を申し出ると直ちに快諾され、彼女は相手が意志を言語に変えて発音する前の状態の言葉を読み取る能力もあるので、それを利用して作戦を伝達する。うまくいけば撃退できるはずだ。
「何が妹だ、どうせ…妾の子だろが!来栖川には一人娘がふさわしいんだよ。先輩が奥手なのをいい事に手柄を立て、両親にうまくて取り入って寵愛を得ようって魂胆だろ。認知されたのをいい事に、影では正妻と実子を追い落とす陰謀を巡らす事しか頭にない人間が身内では、先輩が不憫で成らぬ」
 俺はまず相手の平常心を崩す為、探偵小説によく出てくる文句を挑発の言葉として浴びせ掛ける。
「藤田さんの言う通りです。芹香先輩がこの学校にいるのは自由な校風の中で、市井と交わる為です。見識を広める事であなたのような簒奪者の悪巧みを見ぬく目を養っておられるんです。私達は権力やお金より大事なものを知っています。だから、芹香先輩の孤独を癒す努力を惜しみません」
 正面から掴みかかっても、まず勝ち目は無いので離れた距離から攻撃する手筈だが、勝負師には策で対抗するのが定石で、俺が持っているペンやカッターを琴音ちゃんのテレキネシスでぶつけるにしても、時間稼ぎが必要で琴音ちゃんも口を開き、わざと苛立たせて油断を誘う。俺が取り出した金属のボールペンやアーミーナイフに鉄の定規と五寸釘が床に落ちる数センチ手前で浮いている状態の次に何が起きるかは、たとえ勇士・豪傑・妖術使いでも簡単に対処できない筈だ。
「いやいや、今日は強い風が吹きそうだ」
 俺が白々しい事を言って注意を逸らしていると、琴音ちゃんは見えない手でアーミーナイフの刃を起こした。
「えいっ!!」
 琴音ちゃんは短い気合と共にチャージしていた斥力を一気に解放する。俺が持っていた個々に使用してもロクに武器として威力を発揮しない道具も、弾丸並みの早さで飛翔するとれっきとした凶器だ。作戦通り4本が一斉に肩と膝の間接を狙い、もしボクサーの敏捷性でサイドステップで避けようとしても左右どちらかに移動した時点で2本は刺さる仕組みだ。最も、その場で足がすくんだとしたら、全部命中する。きっと、彼女は運がないのだ…普段は争いはおろか暴力も嫌いな琴音ちゃんを怒らせた。よりによって、能力が強まった時に、しかも猫の気まぐれさ持った状態でだ。今度、彼女がピンピンしているとしたらメイドロボの手足でもくっつけた状態だろう。
「!…本当に、暗器砲が使えたのね。でも、こっちも酔拳を習った事があるのよ」
 信じがたい事に綾香に1本も当たらなかった。恐いもの見たさのせいか俺は視力全開で見ていたが、すべての弾道を見切っていた様子で、最低限の動きでですべてかわしたのだ。綾香は瞬き一つせず、凶器が手を伸ばせば触れる距離に迫ると鍛えられた背筋と女の柔軟性を発揮すると、その場に涼しい顔をして無傷でその場に立っている。
「そんな…ッ!私の力と…藤田さんの作戦が…」
 一方、琴音ちゃんは激しく動揺している。無理もない、マトリクスのアクションを特撮なしで実行したのだ。ある意味、超能力以上である。これで、俺達の勝率は一気に下がった。俺が持っている武器になりそうなものはすべて非常階段の扉に突き刺さっている状態だし、琴音ちゃんの能力も精神に起因する以上、今は暴走こそすれ満足な役割は期待できない。
「琴音ちゃん、金属バットでもテレポートできないかな?やっぱり、いいや。俺が人選を間違えたんだ。葵ちゃんなら、いい勝負したかもしれないけど…俺のせいだから、俺が…なんとかするよ。だから、その隙に先輩の所に行くんだ!」
「きゃははははっ!葵ですって…話にならないわ。葵なんか、私よりずっと格が下なのよ!この綾香様は、エクストリームで不敗の王者なんだからね。あんたは、これから力の差を身を持って知る事になるのよ!」
「黙れ…俺だって、やる時はやるんだ!これから…結界を解いてやる、もし俺が龍か虎になったらどうする?いや、ネズミだったとしても腕の一本ぐらい…冥土の土産にもらおう」
 俺は、自ら歩み出て綾香と対峙する。不利なのは宣告承知である。綾香の反応からして本当に血族なのだろう。溢れる闘争心と実力に裏打ちされた余裕を持ち、まさしく鬼神が味方しているかのようだ。もし、こいつが中世に生まれていたら溢れる強さとカリスマで戦場を席捲しただろう。まったくもって相手が悪すぎるが、男として引き下がるわけには行かず、刺し違える覚悟だ。おもむろにアミュレットに手をかける。紐に繋がったラピスラズリを握り締めて思いっきり引っ張れば首からはずれ、効果は無くなって俺もみんなと同じように属性に支配されるだろう。だが、少しもためらう必要はない。
「藤田さんッ!」
「行け、早く」
「庶民め、こざかしいマネを!」
 綾香は俺と琴音ちゃんとのコンビネーションが乱れているのを見逃さず、すぐに俺との間合いから離れて琴音ちゃんに襲いかかる。
「…騒がしいです」
「姉さんッ!」
「せっ…先輩」
「芹香先輩!」
 先輩の登場で、一触即発だった俺達の動きはピタリと止まった。
「姉さんッ!何自分まで犠牲になってんのよ。こんな奴に、アミュレット渡す事ないじゃない!大体、昼間っから訳のわからない儀式やっといて…困ったときだけ、水晶玉から思念で訴えてきて…」
 綾香は先輩がすごく申し訳なさそうにしているにもかかわらず、ガミガミまくしたて殴りかねない勢いだ。もしかして、この乱暴者には先輩のぶてないバリアーが見えないのだろうか?
「待てよ!先輩だって、いいかげんな気持ちで儀式やった訳じゃねーんだ!そんな言い方ないだろ、セバスチャンだって…もっと、優しいぞ。お前の傍若無人を、俺が黙って見逃すと思ってるのか?俺を怒らせたら、はっぱ帝国が黙ってないぞ!」
「ばーか、強者はいつだってうろたえないのよ。特に、ハッタリに対してはね!」
 パン、パン、パン、パンッ!
 俺は弱いなりに善処したつもりだが、手も足も出なかったものの、琴音ちゃんが階段から部室までの蛍光灯を超能力で次々割っていくと綾香はギョとした。我が後輩は猫の気まぐれさで再び強敵に対して闘争心を取り戻し、自らの力を示した。
「……」
「姉さん?」
 先輩はこの張り詰めた空気の中で、おもむろに動き出す。もしかしたら、出すぎた妹をビンタでもするのかと思ったがそのまま通りすぎ、琴音ちゃんの方に向かうとなでなでした。先輩もかわいいものに目が無いのか、魔女と黒猫の関係を意識したのかそれとも単に俺の場合と同じで不思議なものに興味がわくのかわからないが、なでられた琴音ちゃんの耳もへにゃ〜となったので嫌ではなさそうだ。そんな兎と猫を見ていると、男なら一度は両方同時に自分のモノにできればと思わないでもないが、おとなしい娘という点では姉妹に見えない事もない。そばで歯をギリギリさせてイラついている実の妹より違和感が無くて自然だからだ。
「先輩、俺が琴音ちゃんを呼んだんだ。琴音ちゃんの超能力があれば、きっと役に立つと思うんだ。同じ学校の子を信じてくれよ」
「……」
 先輩はこくりとうなずいた後、わざわざ綾香の非礼を俺に詫びた。綾香が誰にでもずけずけモノを言い、力を誇示して自分の考えを押し通そうとするのはアメリカで教育を受けたせいだと話してくれた。能力主義で裏表がないのはいいかもしれないが、レミィですら理解する義理人情や東洋の精神を持ち合わせていないとは、やはり同じ肌の色をしていても友達には欲しくないタイプだ。
「どっちのやり方が正しいか、祭壇の前で決着つけようじゃないの!」
「オカルト研の指導者は先輩だ。勝手に決めるな!」
「きゃあぁ」
 せっかく俺の説得が先輩の耳に届きそうだったのに、綾香が乱暴に俺達を部室に押し込んだので、白紙に逆戻りだ。こうなれば、先輩に任せるしかない。


「術には術で対抗するのみ!気合で勝負よ」
 綾香は開口一番、黄色い上着を翻すと護符と剣を取り出し、魔法陣の前に駆け出す。
「……」
 先輩は自分の妹の様子をじっと静観している。血族を信頼しているのか、それとも当事者である事に対する負い目なのか眉一つ動かす様子もないが、その間にも綾香は剣の刃先に清めの効果があると思われるもち米を乗せるとそのまま勢いよく一閃した。
 おそらく魔術の覆いとも言える魔法陣を崩す狙いのようだったが、思いのほか魔力が強く効果があがらないのを見ると、激しいながら流れる動きで護符でヘクサグラムの各先端部に飛ばし、そのまま着地の瞬間に剣で魔法の発動を制御する香炉を叩き割ろうとしたが、紫の閃光に弾き飛ばされ綾香の剣は折れ、自身も床に叩きつけられて配置した護符も焼け落ちた。
「こんな…バカな」
「…うにゅう」
 意志力だけで術が敗れるなら充分成功すると思われた綾香の技もあっさり弾き返され、辺りに一層重い空気が流れる中、琴音ちゃんはまるでそうなると気がついて言いたかのようにしっぽをくねらせてつぶやく。ヨロけながら立ちあがる綾香もダメージが大きく、俺のアミュレットと同じ役割を果たすであろう持っていた珠が弾けたようで徐々に獣人化が始まり、両手の爪が伸びだし黄色い毛が生え出す。おそらく、気性の荒さからして豹ではないだろうか。
「姉さん…」
「……」
 自分を守るものがないと悟った綾香は初めて弱気な姿を見せると、先輩は妹の頭を優しくなでて慰めた。これで、この学校で人間の姿を留めているのは俺一人である。しかし、事態に安住していられる訳も内なく、なんとか暴走し続ける魔力に抗う術を考えなければならない。手段を選ばず、あらゆるものを利用して…
「…そうだ!」
 俺は、ようやく狭い視野から解放された。こうした事態を想定してではないが、我が校の裏には神社があるではないか!この霊力溢れるスポットを利用しない手はない。
「みゃあ、わかりました!藤田さん」
 琴音ちゃんは俺が口を出さなくても、向いた方向で気がついたようだ。エスパーだという事を除いても彼女は勘の良い娘だ。
「だが、どうすれば…」
 ようやくひらめいても、封印に布石の力を導く方法がない。
「陰陽道があります」
 琴音ちゃんはパッとした笑顔で答えた。確かに、かの阿部晴明が極めた呪術があれば土地の力をも引き出して儀式の効力を押さえ込めるはずだ。くしくも最近、女の子のあいだで陰陽道は人気らしいので、琴音ちゃんならその知恵を見せてくれるはずだ。
 ふかぶか〜
 先輩は琴音ちゃんに髪が垂れ下がるくらい頭を下げた。先輩は琴音ちゃんのひらめきを信じるみたいだ。
「藤田さん…」
 琴音ちゃんは意を決すると、魔方陣の中央に向かって浮遊移動する。もちろん、魔法が例の閃光で阻もうとするが、斥力を真下に展開して押さえ込んでいるようで無事に中央に辿り着いて周囲を安心させたと思うと、突然口を開いた。
「何だい?」
「私…普通の人間じゃないんです。半数染色体なんです…両親の遺伝子をきちんと受け継げないんです。それが、代々どさんこ…姫川家の呪縛…なんです。だから、もし…」
「もし?」
「解除が成功しても…私は、元に戻らないかもしれません。みんなが救われて、私だけが異形を晒すことになったら…異界に旅立とうって、思います。その時は、芹香先輩と仲良くしてくださいね」
「だったら、もし元通りになったら…俺の専属エスパーになってもらうぞ」
「何ですか?専属エスパーって…」
 俺がちゃらけた約束をすると意外と引き下がらない琴音ちゃんも少しは緊張がほぐれたようだ。
「でも、もし失敗したら…俺もチャッピーになって琴音ちゃんの足元でずっと、ハァハァ言ってるかもしれないぜ?」
「そんなの嫌です。パパッて終わらせて逃げなきゃ…かけっこ苦手だから」
 琴音ちゃんはくすりと笑うと、集中のポーズを取った。ピンク色のしっぽがピンとした途端に俺達の耳にキーンとした感覚が生じる。魔法の力に抵抗して逆に封印する為だが猫耳の娘が紫の光につつまれているさまは神秘的である。
「晴明さま…式神様…イルカさん…クラーク先生…藤田さん、私に力をッ…えいっ!!」
 琴音ちゃんが一気に力を吐き出すと、部室じゅうにある水晶が魔方陣を囲むように集まり、光で五芒星を描きだすと神社の方角からおそらく鳥居を介してエネルギーが流れ込み、新しい魔法陣から琴音ちゃんに力が集まり、最初に描かれた魔方陣や香炉と祭壇を一瞬に打ち砕いた。超能力に霊力まで加わると、まばゆい閃光と共に先輩の儀式の効果は打ち消され、魔力の暴走は収まった。
「琴音ちゃん…?」
 俺は封印が完成した後、白煙がたちこめる部室で琴音ちゃんを探す。
「藤田さん…私、戻ったのが分かるんです」
「そりゃあ、よかった」
 俺は琴音ちゃんが人間に戻っているのを見て安心した。これなら、あかりや雅史も無事だろう。
「姉さん、帰ろうか」
「……」
 事態が収拾されたのを確認すると、綾香は初めて俺に笑いかけると先輩を連れて先に部室を後にする。


 琴音ちゃんは、俺がすべての生徒が気になっていたのを分かっていたのか空中からさまざまな教室の様子をみせてくれた。いきなり変異して約2時間後に回復したのだから訳のわからないのがみんなの意見だと思うが、志保が流したかもしれないデマの「人間も動物だから、先祖帰りして相手の動物性が見えただけ」など過小評価された噂が大勢を占め、だれも先輩のせいと気がつくものは一人としていなかった。我が校にも怪奇ネタが一つ出来たので、近いうちにある修学旅行で他校にも広まるかもしれない。
「琴音ちゃん、どうして…元に戻っても力を制御できるんだい?」
「その…人の為に使うと、強い力でも楽に操れるんです。もっと…二人で経験したいですね」
 ようやく2年の教室の階に辿り着くと琴音ちゃんに降ろしてもらい、俺は廊下に愛する仲間を見つけたのでそのまま駆け出す。
「あかり!」
「あっ、浩之ちゃん!」
「私ね…クマだった間に運命の人を見つけたんだよ。重信ちゃんもね、クマだったんだよ。どうして、今まで大熊っていう名前なのに気がつかなかったのかな?」
「ついて行けん…」
 俺はあかりとの再会を望んだのには何か訳があると思っていたのだが、何だか忘れてしまった。
『こちらは校長である!!このたびの事態は、生徒・職員共に報道機関及び教育委員会への報告は、ぜひとも控えていただきたい!常識を疑われるのは全員の不利益と言えるからである。それと、この事態で生じた破損・負傷において、管理側は一切関知しないものとする!各自保険・民間療法等を利用するように!えー…本校の各部にも損害が出てる模様なので、点検・修理の為…3日間は完全休校とする。ただし、各部部長並びに体育委員・保健委員は登校する事…行方不明者及び非生存者の捜索に参加を要請する。この人生…生きていると、信じられない事に出合う事も珍しくない。未来は厳しいかもしれないが、志を胸にたくましく生きて欲しい!これをもって、本日の夕礼を終わる』
 もしかしたら、俺とあかりは違う関係にシフトしていたかもしれないが、この騒動で友情や恋愛・人生設計が無駄になったやつもいるので俺だけ文句は言えない。しかし、校長の突然の放送には抱き合う二人・目覚めた野郎・毒が回っている教師も足を止めて聞き入っていたが、さすが経営の私学の管理職だけあって免責の主張は見事だったが、生徒の一人としては素直に臨時休校に感謝するばかりだ。
「…ったく、しょうがねぇなあ。校長のヤツ」
「藤田さん…、約束覚えてますか?」
「え?あぁ…何だっけ」
「専属エスパーの件ですよ。それに猫好きって、言ってくれたじゃないですか」
「それって…どういう関係?」
 俺はけっこう女の子を知っているが、何を隠そうドーテーで彼女もいないんだ。
「藤田さんったら…迷子の子みたい。もし、藤田さんの家のお風呂とかベッドにラッセルさんの絵やどこでもいっしょの白いネコのシールが張ってあったら、寸分たがわずテレポートしたりできるんです。これで、いろんなものになれるんです」
「恋人?通い妻?妾?情婦?とにかく、こねこといっしょ…だな」
 とにかくこの紫の髪の色をした少女は俺と腕を組んでいるし、世間で言うラブラブなのかもしれない。だから、俺がそのほっぺを指でつついてやると軽い陶酔の笑みを浮かべていた。まさしく俺に単なる信頼以上の思いを抱いているに違いない。
「そうです、いつでもにゃんにゃんできるんです。いつでもOKですよ、もしデキちゃったら、それをイヤな娘のおなかにテレポートしちゃえばいいんです。それから、修学旅行で泊まるホテル…教えてくださいね。消灯になったら、牧場に飛んじゃいましょう。月夜の下で結ばれるなんて、ロマンチックですね」
「にゃんにゃんって…今時使わないぜ。…ったく、しょうがねぇなあ。せめて、メイクラブとか…」
「だって、恥ずかしいんだもん。まだ経験ないし…」
 琴音ちゃんはいつものように拳を口元に持ってくる仕草をするが、今度は乙女の恥じらいのようなものが見て取れて俺は感激した。
「そうやって恥らうと、萌えそうだ」
「いいですよ、萌えてください」
 これまで数奇な運命を辿って来た琴音ちゃんも、今日の事件で超能力だけでなく女としても成長したみたいだ。
「いいな、恋愛と超能力…まるでオレンジロードだな」
「いつか、沖縄やハワイにも飛んでみたいですね。真夏の太陽の下…三角関係になっても、私は無敵ですよ」
「あぁ、永遠の夏だ」
 心のどこかではあかりや先輩と付き合う事が自分にとってのきまりごとのように思えたが、このきまりごとをも超えた力と心を持つ彼女がいれば、俺には刺激的で一味違った青春も待っていそうだ。

−FIN−

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