《Possess heart・壱》

全年齢
Written by 瑞雲






 俺は授業中にも関わらず、先輩と部室で二人きりだ。なんとも、おいしい展開に思えるがこの藤田浩之、天地神明にかけてやましい気持ちはない。簡単に言えば、先輩の趣味に付き合っているだけに過ぎない。と言っても決して無理やりではない。そもそも、先輩との繋がりはふとしたきっかけから始まる。なんとか遅刻を避けようと急いで校門を超えた時に二日連続でぶつかってしまったのだ。その時の印象は美人だが、ぼーっとした感じの娘だと思った。その後、先輩が来栖川家令嬢でオカルト好きであると知った。出合いが不思議であるだけにその後の関係も奇妙である。俺が先輩が落とした本を届けると、お礼にわざわざカード占いをしに来てくれた。先輩はお嬢様なのにちっともえらそうにせず、むしろ上品で口数も少ない繊細でナイーブな女のコだ。だから、なんとなく心配でついていたくなるのだ。もちろん、学校の行き返りは執事のセバスチャンが運転するリムジンで通っているので心配ない。むしろ、セバスチャンの過剰な護衛のせいで俺の方が危ない思いをした位だ。一緒に帰ることはできなくとも、昼休みは彼女のお気に入りの場所である中庭のベンチで木漏れ日を浴びながら、優雅な時間を過ごす事ができる。今日もそれで終わるはずだったが、お昼を分けてもらったお礼に動物占いについて話すと、自分はもっとすごい事ができると言い、午後の授業をサボって先輩の儀式に同席している。そもそも、広葉学園で先輩を咎めれる人間はいないからいいのだ。だから、オカルト研の部室では黒ネコを飼い、ロウソクで火を焚き、ミッション系だと焼かれかねない書物も多数保管されている。
「ЧКЙЖДЭБЁЛПФЮ…」
 先輩は魔方陣の真中で呪文を詠唱している。いつもの黒い帽子とマントだが、今回は用いる本が違い、独特の器で不思議な材料が燻され煙が立ち昇っている。怪しい光景であっても先輩が学校一の美しい黒髪の持ち主で、制服を最も清楚に着こなす生徒である事に変わりない。しかし、こんなに真剣な姿を見ていると彼女を不気味だと言う人間が理解できない。どこの世界にこんなにかわいい変人がいるだろうか?俺は及ばずながらヘクサグラムの外で彼女に貰ったアミュレットを握り締めて成功を祈った。
 チッ、チッ、チッ…
「…!!」
 儀式も佳境に入ってくるとラップ音が聞こえてくる。ユーレイな部員のしわざでこの部屋では珍しくない現象だが、その瞬間立ち昇る煙が少し揺らいだと思うと、一気に火元から何条もに分かれて激しく吹き始めた。その勢いに視界が遮られ、ただ事ではないと悟らされる。その膨張具合からしてこの部屋はおろか校舎全体に広がったのではないかと容易に予想できる。どうやら不測の事態が起きたようだ。
 確か、人間にはそれぞれある種の動物の特性を持っていて、それが人格や外見にも影響を及ぼしているらしい。少なくとも、先輩がインディアンやアフリカとか南洋の原住民の間に伝わるシャーマニズムを研究した結果ではそうであるとの結論だ。とにかく、超常現象には謎が多いので、俺にはなんとも言えないが、おそらく背後霊や守護神と同じ概念なのだろう。
 煙が少しマシになって安心していたら、肝心の先輩が魔法陣から消えていた。俺は少しありえない事を想像したが、あの帽子やマントが落ちているのでそれを伝っていく。煙は扉や通風孔から外部に広がっていった様子で、いつのまにか開いていた扉から外に出てみた。廊下にもついさっきまで煙が流れていた様子で、もし煙の色や香りがポップでなければ火事と思われていたが、これだけの規模をチョークの粉だと思いこむ筈もないし、どっちにしても大変な事がおきているのではと思ったが、直後に先輩と目が会った瞬間には俺が凍り付いていた。
「ははっ…これは夢なんだ。何、寝てんだよ…俺」
「……」
 俺が前後不覚に陥り、その場にへたりこんでしまっていると先輩が来て俺の頭をなでてくれた。先輩の優しさでなんとかショックから免れたものの、現実ですと告げられた。確かに目の前にいる来栖川芹香は俺の知っている姿と少し違う。一言で語るととウサギのエッセンスが加わっているのだ。なでてくれた手は動物の感触だし、ピンと立った耳と着ぐるみの一部みたいな足首、丸い尻尾…見えないがあの前歯もあるのだろうか?と思いながらも儀式はとんでもない結末を迎えた事を改めて実感した。
「も、もしかして…俺も?」
「…だいじょうぶです」
「マジで?」
「まじです」
 バニーな先輩を目の当たりにして自分も心配になって手首や足を調べ、持っていたアーミーナイフの刃を出して急いで顔を写す。しかし、俺には変化がなかった。どうやら、アミュレットのお陰だったみたいだ。だが、男のクセに一人でオロオロし、無事だと知ると勝手にホッとする様は先輩に対して失礼に思えた。しかし、先輩の黒い髪と白い毛の耳・赤い制服の袖とフンワリした毛並の手首、不思議なコントラストがとても愛らしく見える。まるで先輩が好きなミッフィーと一体化したみたいだ。思わず先輩に言ってしまうと人によって属性が違うが、案外好き嫌いも関係すると説明してくれた。
「俺、他のヤツらの様子も見てくる」
「……」
 俺は仲間の事が急に心配になったので、確認に向うと告げると先輩はトラブルの原因を探りますと言った。


「嫌だぞ、人外魔境なんて!」
 俺は猛ダッシュで自分の教室を目指す。
「でやぁッ!」
「メエェ?」
 ようやく2−Cまで迫るとメガネをかけたヒツジ人間が行く手を遮ったので、思いきりソバットを見舞った。当ててからかろうじて結婚したが子宝に恵まれない石女で性格が悪く密かにブランドや毛皮の好きな社会科担当のババァだった事に気付くが、愛する仲間に比べれば取るに足らない存在なので無視した。
「やぁ、浩之」
「お前、そのままだな」
「まるで爆チュー問題だよ。でたらめな歌でも、歌おうか?」
「いや、いい」
 教室に入るとすぐに雅志に出会った。やつはサッカー部だからJリーグの好きなチームのマスコットと同じ種類かと思ったが、やはり好きで飼っているハムスターに変容していた。長いヒゲとシッポがマニアにはたまらなさそうだが、あかりが気になっていたので探してみる。
「あっ、浩之ちゃん」
「やはり、クマか…」
 幼馴染みで微妙な関係の彼女が気になるのは当然だが、こうも素直に変異している人物もめずらしいだろう。あかりは真っ赤なクマで黄色いリボンをしているのですぐに分かる。変異の度合がここまですごいのは、やはり無類のクマ好きならではだろう。
「どうして、浩之ちゃんだけ普通なの?」
「きっと、なんとかするから…それまで冬眠しててくれないか」
とても一言で説明できる内容ではないが、直立している以外人間の名残がない状態で、むしろうれしそうなのは逆に恐いくらいだ。
「藤田くん、これはどうゆう事や」
「委員長…」
 俺がダべっていたら背後からすごみのかかった女の声がした。振り向くと猫科な半獣人のめがねっ娘、保科智子だ。しかし、胸が大きいと聞いたから牛だと思っていたが、やはり気のきついところからして猛獣の一つである虎だったとは…
「クラス委員としては大変だと思うが、必ず解決するから…けど、どうしてホワイトタイガーなんだ?」
「そんなパチモンやない、神獣の一つ…白虎や」
 クールな委員長は別に驚くようでもなく、新しく爪の生えたごつい手や長いしっぽを加えて「話にならん」のポーズをした。
「自分だけ、カッコつけたら…ダメダメ!」
「やめっ…堪忍や〜」
 せっかくクラス委員なのだから女子を代表して「助けてぇ〜」と頼れば士気も上がるのに、コケにされてはおもしろくないので、大きなネコの要素を持った彼女のツボを責めた。のどのあたりをゴロゴロされると、さしもの幸運を呼ぶ虎の少女も耳が垂れしっぽが波打ち、机の上であお向けになって腹を見せ降参のポーズを取るがもう少し責めると発情しそうになったのでやめた。今はちちくりあっている場合ではないのだ。たとえしっぽのせいでパンツが見えそうでも、白と黒の毛が生えてヘタなストッキングよりセクシーな足に触れれてもみんなを救う方が先なのだ。
「いいか、みんなをまとめとけよ」
「うにゃ〜ん」
 俺は委員長を説得すると教室を出る事にした。このクラスに委員長以外に強い動物はいなさそうだ。体育会系の猪・ゴリラ・チンパンジー、ガリ勉のカラス・フクロウ、ワルのジャッカル・ディンゴ、十人並の犬・馬、あの岡田はあの爬虫類系の顔からしてイグアナだったが、委員長の怒りに触れてしっぽの半分を食いちぎられていたし、松本と吉井は燕と雀だった。所詮は小物といった所だろう。たとえクラスが平和でも、この騒動が納まった訳ではないから解決の手がかりを探さなくてはならないので、俺は急いで教室を出た。
「藤田ーッ!」
 俺は怒鳴り声の方に振り向く、すると牛の半獣人が立っていた。その姿は先輩が持っている本に載っていたミノタウルスのようだった。
「どーしてくれるんだ!こんな姿じゃ、神岸さんの前に出られないだろぉぉーー」
「お前は…」
 化け物は鼻息も荒く俺を睨み付け、わめき散らす。姿の割に細かい心配をする相手が内心おかしく見えたが、頭の角と太い腕が脅威となると推察できたがもっと分析することが大事で、外見から関連性を探ため順序よく理論立てる。長身→バスケ部→NBA好き→シカゴブルズ→牛、つまり、こいつは…
「…矢島か」
「どうして、お前はなんともないんだ!さては、お前のしわざ…」
 せっかく正体が割れたのに、会話は空回りのままだった。このままでは、突進されそうだ。最近はビーフを口にしていないのに、なぜ牛に追いまわされなくてはならないのだろうか?
「ヒロ、知らないの?矢島って、最近あかりに気があるのよ」
「志保か?」
 俺が状況を把握できないでいると隣の教室から志保が来て、いつものデマとは異なり信憑性の高い情報を伝えた。もちろん、彼女も変異しており、キツネの特徴を備えていた。
「狼ならオオカミ少女でピッタリだったのによ〜、ヒャハハハハ…」
「何がおかしいのよ!学園アイドルの志保ちゃんなら、もっとセクシーな動物霊が降りる設定なのに…」
 意識に潜む動物的一面が表面化するのがこの事態の根源なら、先輩のように心まで美しくないと愛らしい生き物の特徴を備えれるはずがない。だから、志保は昔からズルい動物と言われるキツネなのだ。耳は案外、髪型のせいか違和感はないがやたら毛の多く、しっぽがスカートを持ち上げていていっそうバカに見える。
「まさか、ヒョウにでもなりたかったのか?よせよ、ヒョウ柄なんて…パンツだけで充分じゃねぇか」
「キィ〜、ヒロのスケベ!」
「貴様ぁ〜!あかり嬢だけでなく、長岡さんにまで…!」
 俺がめずらしく順調に歯に衣を着せない女を打ち負かしていると、猛牛が誤解して突然キレだした。このままでは、角で突かれる!
「矢島ぁ、英語をサボっていたら、国際人になれんぞぉ!早く、教室に戻れぇ!」
 マントもサーベルもないまま闘牛をする羽目になるかと思ったが、カバ人間…もとい、英文担当で生活指導もしているチビで寸胴が矢島を叱咤して教室に戻らせた。マスターした所で外人と話せるわけでもないつまらない科目の教諭が初めて仕事らしい仕事をしているように見えた。しかし、変異した動物がカバでは当分独身生活が続くに違いない。
「志保、いいか。この状態の真相を探ろうなんて考えるんじゃないぞ!教室でじっとしとくのが無難だな、外にはホンモノの獣がいるかもしれないぞ?よくて犯される程度…最悪の場合、食われるな…きっと」
「…!!」
 ピシャリ!
 俺の説得が効いたせいかキツネ女は足早に教室に入り、瞬時に扉を閉めた。しかし、俺も戻るそぶりを見せなくてはまだ側にいるだろうカバ男に文句をわれそうだ。確か、こいつは愛煙家だからヤニ臭く、しかもカバの大口だから説教でもタレられたらほとんど拷問に近いので軽く一瞥して退散するのが得策だろう。しかし…カバ男はさっきまでいた場所にいなかった。
「…?!」
 一瞬いないかと思ったが、そこにスリッパだけ残されていたからよく見ると…なんと、足首もいっしょに残っていたのだ!しかし、こいつを襲ったやつが見つからない。そこで少し考えていると、自分がそいつの影にいる事に気付く。
 グルルルルル…
 俺はこの世のものとは思えない低い唸り声を耳にすると、そちらに振り向く。そいつはとても大きく、矢島なんか足元にも及ばない生物であった。教室ではテレビでしか見られない動物の特徴を目にしたが、こいつは現在の地球には存在しないはずだ。
「…スー?」
 今は目の前にいる最強の肉食恐竜と二人きりだ。カバ男を食ったのはこいつに違いない。志保は俺を置いて逃げやがったのだ。頭を屈めて天井ギリギリでなんとかしのぎ、青い目で俺を見下ろしている。頭に白いリボンをしているので、一応女の子だからかつて化石で発掘されたメスのT−REXの名前で呼びかけた。恐竜の擬人化はTVドラマの恐竜家族で見て以来だが、あれはコメディなので狂暴さを目にするのは初めてだ。
「スーザンじゃないデス、レミィね」
「レミィ、今日は…特にキュートだ」
 誰が変異したのか分かっても、この恐怖に変りはない。レミィは爬虫類系に見えなかったが、思った事をすぐ口に出す理性や思考の低さや白人の血を引いている分、体格が大柄だし肉が好きなはずで、何より日本に来る前のシュミはなんとハンティングなのだ!さっきカバ男を食ったのは、かつて裕福な白人がサファリで狩りをする時、カバを悪魔の化身としてよく撃ち殺したらしいからその名残みたいだ。しかし、あの爪と牙だからヘタに触られるだけでも充分危険だ。できれば、事なしを得たい。
「褒めてくれてうれしいデス、さっきクラスの男子がアタシを見て失神シマシタ。きっと、フェロモンのせいネ。アタシが張子の虎でない事を示すチャンスだネ、ヒロユキ…今日こそアタックするデス」
「よせ…慌てる乞食は貰いが少ない、だ」
「逃した魚は、鯛ネ!」
 レミィはハーフだけあってスキンシップの多い女だが、この状況では危険極まりなく、間合いに入られた時点で彼女の狩猟本能や食欲の犠牲にならないとも限らない。普段のバカそうな笑顔もライオンよりごつい牙のならんだ口では相手を戦慄させるに充分で、なだめすかすにも聞き入れる耳やいつもより退化した知能では期待が持てず、地を揺るがす歩みは俺を後退りさせるだけだった。もし、キスしてやったとしても頭から齧られない保証も無いし、室内に逃げ込もうにも志保の事だからテコでも扉を開けないだろうから、俺は流れるように回れ右をすると一目散に駆け出す。とにかくあの牙や鈎爪や太いしっぽを食らったら即死だから必死に逃げる。脚力・スタミナで恐竜と張り合える自信はないので、知恵と小回りを生かして登り階段のルートでレミィに差をつける。女は階段を上るのが遅いと言われるが歩幅が違うので、映画のように防火扉を閉じさせて進路妨害したり、最上階まで登ると今度は手すりを使って一気に滑り降りる。本当は反撃したいが、机を投げつけても無駄だろうし、もし手元に戦国時代の合戦に使われた槍があっても相手がデカいだけに大してリーチが取れない。せめて来栖川アームズのヘビーライフルがあれば倒せそうなのに…
「ヒロユキ、恐がってばかりイタラ、大物になれないネ」
「だれが、お前の獲物なんかにかるかーー!」
 俺は床を転げたり壁にぶつかりながらも必死に走るが、レミィに追い詰められる寸前で機転をきかせ、彼女の足の間をスライディングして通りぬける。しかし、もう足がついてこず、追跡をかわしきれそうにない…
「やい、大トカゲ!我が名は、松原葵!最強の戦闘種族の名にかけて、いざ勝負!」
「横恋慕は、見苦しいネ!売り言葉に買い言葉ナノデ、バトルするデス」
 自分がスカンクに変異してなかった事を悔いていたが、後輩の格闘娘の登場で救われそうだ。
「がんばれ!葵ちゃん、やつの弱点は頭蓋骨の隙間だ」
「くらえッ、ギャリック砲!」
 先輩としては床に転がっているだけではいけないので、彼女を励まし、同時にアドバイスする。しかし、葵ちゃんは掌からエネルギー波を飛ばしてレミィを攻撃する。命中した瞬間に猛烈な閃光と同時に爆風と衝撃があたりに広がり、収まった頃には恐竜娘は校舎の外に弾き飛ばされていた。
「先輩、無事ですか?」
「…ありがとう」
 葵ちゃんは俺をヒョイと抱え挙げると、抱きしめる。勝利に酔いしれているのだろう。これだけ身近な距離にいながら彼女が何に変異したのか分からない。
「先輩、私…実はサイヤ人だったんです。覚醒した後…全身に力が溢れて、好恵さんや袋田先生にも勝てたんです!」
「ホントだ…確かに、しっぽがある」
 彼女がエクストリームを語る時と同じくらい熱くなって自分の世界に入っているので、その間に体をいじり回し、背中の性感帯を探ろうと撫でた後、オヤジが萌えそうな赤いブルマに包まれた小振りなヒップを触っていると樹上生活のサルが持っているしっぽがあるのを確認した。
「先輩…!」
「誤解だ…この肉体美を前にすればどんな男も…」
 ようやくまともな体の少女に出会えたせいで、調子に乗りすぎてしまった俺は手をひっこめるタイミングを逃し、彼女に気付かれてしまった…もしかして、次は俺が信じがたい力の犠牲になる番か?
「じらさないでください!激しく動いた後は…体が火照ってしまうので、前戯なんかいらないんです…」
「頭に乗るな!一年の分際で、何様のつもりだ!大体…この事態を何とも思わないのか!まともに頭の働く人間だけでも、手を講じるのがスジだろうが!」
 なんとか殴られずにすんだが、急に盛りがついたように擦り寄ってくる。やはり、しっぽに触れると言いなりにできるという逸話は本当のようだが、後輩に息子を触られている場合ではないので彼女を一喝した。
「すいません、先輩…私、体しか能がなくって…」
「とにかく、手を貸せ。そしたら、今度裏の神社の林ででもかわいがってやる。まだ人並みに行動できる生徒を見つけ、才能と英知を結集してこの騒動を解決する。だが、今の俺は足がクタクタだ…それでも、休んでいるヒマはない」
「葵ちゃん、こういう探し方はどうだろう?」
「見えませんか?先輩」
 俺はなぜか葵ちゃんに肩車されて廊下を進んでいる。どうせなら肩を貸してくればいいのに、これでは動物園に来た家族連れだ。はたして、彼女は本当に使命を理解しているのだろうか?一応目線が高いから上の窓から教室の中が見えるが、ヘビ女の教師が睨みつけるシーンとしたクラスや大半が爬虫類で冬眠中のクラス、動物化によって美醜や人間関係が逆転したクラスなどあるが、まともでないなりに自分たちがこんなだから他のクラスは分かったものじゃないとばかりに教室に閉じこもって混乱をやりすごそうとする無気力派か事態を楽しもうとする楽天家ばかりで俺の学年ほど騒がしくないが、気楽な一年ばかりだと期待が持てず、俺の下にいる野生児だけでは力不足である。
「なあ、琴音ちゃん見なかったか?」
「先輩に会う前に、中庭の方に歩いていくのを見ました。それが何か?」
「そういうのを、サボタージュって言うんだよ!」
 ダメで元々で質問をすると意外な答が返ってくる。もしかして、この後輩は本当に大ボケなのかそれとも探す気が無いのかまるで状況を理解していないのかと感じ取ったがどちらにしてもイライラさせられたので思わず頭をボカボカ殴ってしまった。
「人が真剣に悩んでるのに、女のクセに自分の体のことも心配しねーで、自分に酔いしれやがって」
「すっ…すいません、本当に今まで気がつかなかったんです」
「今は、野生化してる場合じゃないんだ」
「あ…この木の上に強い気を感じます」
「葵ちゃん、ごくろうさま。今のうちに空手部の連中を倒しておいたら、どうだい?目障りだったんだろ?」
 ようやく手がかりを得ると葵ちゃんは得意の脚技で壁を壊して最短距離で俺を導いてくれたが、同時に彼女の限界も知れたのでお引取り願う事にした。決して悪い娘ではないのだが、俺が今必要としているのは怪力よりもすごい能力なのだ。


「琴音ちゃーん、今度うどんおごるから…」
 俺は葵ちゃんが走り去った後、高い木を見上げて超能力少女に呼びかけた。彼女は人を避けて心を閉ざしているがB型の娘なので、本当は自分が好きなはずだからうまい話で持ちかけ下手に出て頼めば、見えるところまで降りてきて話を聞いてくれると思ったが、気がつくと俺の両足は地面から浮き始めていた。
「藤田さん、もしかして…私に関わりたいんですか?」
「いや、随分力が強くなったんだね…」
 呼びかけに応じてくれたのはうれしいが、念力で吊り上げられてる事をどう受け止めるべきなのだろう?すでに落ちたら無事でない高さだから自力で登ろうとしていたら大変だが、自分より大きな俺を自分のいる場所まで動かせる事自体、力をコントロールできるようになった証拠だ。
「藤田さん…肉体の変化が精神や知能にも影響するんです。感覚が以前とは比べ物にならない程、敏感で鋭くなったんです。喜んでくれてるんですね、言葉が伝わってきます」
「今、言おうとしてたんだけど…ここじゃ話しにくくないか?」
「そうですね、屋上へ行きましょう」
 空中にいるという超常的かつ不安定な状態では恐怖症でなくとも不安で、相手の顔もろくに見れない状態だったので環境を変えたい気分だった。
「いいね、ネコミ…いや、俺も実は猫好きなんだ」
 ようやく地に足をつけ落ちつきたい所だが、日頃からあどけなさと上品さを併せ持ち性格も穏やかで優しく、まさに正しい“美少女”が猫の特徴を備えた事で可憐さを増し、バニーに次ぐ男のロマンな猫耳に変化した後輩は、俺に8日間夢を見させてくれたマルチ以来のいとおしい存在に思え、側にいるだけで胸のドキドキが止まらず、照れくさくてまともに目を合わせられなかった。
「本気でそう言ってくれるのは、藤田さんだけです。猫に好かれるおまじないを知っているなんて、私…うれしいです」
「琴音ちゃん…男だって、かわいいものに目が無いんだよ。俺なんか…つい、その無垢な笑顔に、思わずまいっちゃうんだ」
「でも、ひどい人もいるんです。クラスの男の子達が私の目をじっと見て来たんです。だから、ついイライラが押さえられなくなって…」
「みんなもパニックになったりしてるみたいだけど、こういう状況だからこそ…そいつの本性が出てくるんだ。ケモノの目をしているやつがケダモノなんだ…襲われる前にやっつけれてよかったじゃないか。生きる努力を惜しまないのが、自然の法則なんだよ」
「藤田さんは人間のままで安心しました。私にできる事…ないですか?」
「本当なら…俺、あやまらないといけないんだ。こんな事が起きたのはオカルト研と俺のせいなんだ…こんな時だけ、琴音ちゃんの力に頼るのは勝手だと思うんだけど…」
「そんな事ありません!藤田さんはとても正直だし…立派だと思います。私、能力がコントロールできるようになったのに…自分の殻に閉じこもって現実から逃げてました。ぜひ、お手伝いさせてください」
 俺は半分騙すつもりでいたのに前にも増して琴音ちゃんが自分の居場所をなくしていた事を知ると、先輩に取り入るためにこの騒動を利用しようとしていた自分が許せなくなったが、それでも俺の力になってくれるというのだからはすべてを話さなくてはならないだろう。
「超常現象を鎮めるには…超能力しかないと思うんだ」
「はいっ!なら、今すぐ部室に飛びましょう」

−To be continued−

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