《トウジ×アヤナミ〜絆だから〜》
(上巻)


18禁
Written by 瑞雲





 綾波レイが鈴原トウジを学校から連れ出したのは、彼の友人のケンスケがエヴァ参号機がアメリカから日本にあるネルフ本部に移管されるとの情報を得たのが原因だった。
新しいエヴァには新しいパイロットが必要で、チルドレンたる適格者の条件を満たした人物はシンジの友人のケンスケとトウジであったが、レイは画像で見た黒いエヴァと黒いジャージを着たトウジにシンクロニティを感じ、女の勘でトウジを推挙するのが相応しいと決断する。
彼女は作戦部長の葛城ミサトと同じチルドレンでドイツから来たアスカが信用しきれないのと、絆を感じていたシンジもアスカと肉体関係にまで発展した事で、状況が一変した。
例え作られた人間で遺伝子まで進化した少女も日頃は無口なニヒリストにすぎないので、もはや敬愛する上官の碇ゲンドウの息子である少年にも影響力を及ぼせないと悟り、せめて新しい仲間はミサトの影響下でなく、自分と同じくゲンドウに近い所で戦う事ができたら自らの任務たる使徒殲滅も有利に導けるとの結論に達したものの、知能は高くても処世術という言葉とは無縁の少女が思惑通り事を運べるかは本人にも分からないが、使徒との戦闘でエヴァが大破した経験もあるので、これから予想される困難を思うとやるだけの価値はあると考えていた。


「いや〜、綾波も話せるもんや。午後の授業フケて遊びに行こうやなんて。単なる優等生やないな」
 トウジは第3新東京市に住んでる以上、ネルフから召集される事もありえると思っていたし、レイの説得にあった「戦列に加わればシンジを助ける事ができる」と「ネルフなら先端の再生医療で妹の治療も可能」の二つのキーワードで心が動き、これまで関心はあったがなかなか接近する事ができなかった少女からの誘いと言う事もあって下心も動機になって応じると、まず親睦を深めようという話になり、公営プールに行くことになった。
「私は…赤毛猿とは違うの」
 レイに取って学校はさして重要ではなく、ネルフ、しいては自分の進退にも関わる要件の方が大事であった。学校では融通が無いと思われていたが、それは彼女の物事の優先順位のせいである面も大きかった。
「やっぱり、アスカが嫌いか。しかしやな、あそこまでケンスケのデータを信じてええんか?」
「彼の父親はネルフの職員だし、彼も民間人とは言え…マニアよ。映像があった点も重要だわ。それにエヴァは大きく、開発にかけられた予算も膨大だから、そうそう隠しきれるものじゃないの。最も、私の部隊に新しいエヴァやチルドレンの登場を快く思わない功名心と出世欲に心を奪われ、目先の利益しか眼中に無い、稚拙な精神構造で戦略や計画に対して無知で、あんなに感情的では…」
 トウジが友人の事を話に出すと冷静に分析して答えたが、同僚の事になるとレイの非難の矛先は一名に集中していた。
「まあ、まあ…その辺で。しかし、言うてみるもんやね〜。まさか、スクミズになってくれるなんて」
「なぜ、私用でやってきたのに…今更…」
 レイは行き先もトウジの希望に添うものにしたが、なぜお気に入りの白い水着が認められなかったのか理解できなかった。
「それは…フェチや。グランドや体育館ではブルマ…プールとスクミズの取り合わせが最高やからや。お前かて、異性の色気を連想させ、魅惑的な幻想へと誘うアイテムのひとつやふたつ…あるやろ」
 トウジは独自の解釈でシュミを正当化し、レイの疑問の矛先をかわす。
「眼鏡と手袋…。先に行くわ」
 不意に問われると思わずレイは浮かんだものを口に出してしまい、まるで口車に乗せられたよう心境になってかすかに敗北感を覚え、普段より無愛想な態度で更衣室に向かった。
「何や、いきなり」
 もちろん、トウジにレイがゲンドウに抱く感情を知る情報はなく、単にヘソを曲げたくらいにしか見えなかった。
「…スズハラ」
 着替えの例に漏れず女子の方が遅く、すでに海パン姿になったトウジが待っていたので、後からスクール水着を着て更衣室から出て来たレイは準備万端である事を示すため声を掛けた。彼女の口調は協調関係を築くべき相手の割に、相変わらず無機的なのには訳があった。トウジとエヴァを結びつける事で戦力の拡充が望めると悟った瞬間、すぐさまトウジの手に触れて「トウジ、エヴァに乗れ」とゲンドウを真似た口調で告げた途端、トウジに無礼だと責められたため、苗字にくんを付けて呼び直したがワザとらしいと受け取られ、最後は呼び捨てでよいと言われた。
「ええな〜、白い肌と濃紺のスクミズのコントラストがたまらんで。サービス満点や」
 日頃は硬派で知られるトウジも、やすやすと叶わないはずの願いが叶うと、率直に感想を述べる。
「要望に従った…までよ」
 トウジの感動をよそにレイは端的に答える。彼女の言葉の遊びの無さや大人びた態度はトウジにとっては知的でクールに映り、レイはトウジの明るさやストレートな表現方法はシンジにないもので新鮮に見えた。
「綾波の胸!太もも!ふくらはぎ!…ん?」
 すっかり上機嫌のトウジは舐めるように美少女の整った肢体の中でも特に女を意識させる部分に注目するが、偶然視野に入った両手首に目をやると異変に気付いた。
「ケロケロ…」
 レイはその疑問を解くように手の平を前に出してそれぞれの指を曲げ伸ばししてみせる。生地はウエットスーツに使われているようなものに近いが手の平は作業に対応できる位丈夫そうで、それぞれの指の間には膜があり、指先には尖った爪があった。色は淡い緑色なので、連想させる生き物を真似て分かりやすい使い道を示した。
「脚ヒレやのうて、水掻きかい。通販のアイテムっぽいな」
 珍しくレイがおどけてみせたが、目の肥えたトウジから笑いが取れる筈もなく、便利さは認めるものの、さして注目しなかった。
「…」
 レイは無言で頷く。彼女の場合、ケンスケのように自慢げに語って悦に入るようなクセはなく、聞かれなければ解説しないタイプであった。凡人のように物珍しさだけで手にする訳ではなく、軍に売り込むつもりで作られた一品だけあって質実剛健で役に立ちそうだと思って持っていたのだった。
「とりあえず、行こか」
「…そうするわ」
 遊べる事が決まったから、トウジはすっかり舞い上がっているせいでいつもより口数が増えたが、レイは感情や表情に乏しいものの、ムダ口は叩かないが聞かれた事はきちんと答えるし、発言のタイミングも絶妙で一方通行になる事も無く、まるで逆の性格に見えてもきちんと会話が成立していた。
「ナニ、あれ〜!スクミズじゃない?何でこんな所に着てくるの?あの子、おかしいんじゃない」
「って、ゆうか…あの肌の色の方が変じゃない?白すぎ〜、あははっ、ロウみたい」
「蝋人形より、あの頭だったら、こけしって感じ」
 通路でダベっていた女子大生はダブルデートの最中で、二人とも男にジュースでも買いに生かせていて、待っている間はお互いに水着を自慢しあっていたが、レイを発見すると主婦並みの軽率さで、清涼感だだようルックスや露出度の低い水着に身勝手な評価を下する。
「私は、人形じゃない…」
 トウジがわずかに歩みを緩めたのは彼女達のボディの発育の良さときわどい水着のせいだったが、レイは聞き捨てならない様子で立ち止まって短く反論した。
「何よ、アタシ達に文句があるの?ウサギみたいな目して」
「ガキのクセに、色気づいちゃって…生意気よ!貧乳の分際で…」
「ガッ!」
 ザシュ!ぶつん…びりり
 男にチヤホヤされる事に慣れてあまりに利己的になった二人に対し、ついにレイはキレてしまい、二人に襲いかかると短い唸りと共に手袋の先端の金属のエッジで極小ビキニやTバックをズタズタにした。
「いやぁあああ!」
「みっ、見ないでぇー」
 レイの攻撃は負傷を狙ったものではなかったが、ブラ線を切る程度の生易しいものではなく、女達から乳房や股間を覆う布を強引かつ着実に排除していた。レイが嫌がらせをするなどゲンドウでさえ想像もつかない事だが、トウジは女のプライドを傷付けられたので当然だと思った。
「ええぞ、無料のストリップや!」
 女達が悲鳴を上げると、通路を行き来するする人々が一瞬注目するが、トウジの下品なヤジで男達の足が反射的に止まった。
「ざけんなよ、てめぇら!」
「水着、どうしてくれんのよ!」
 ヌーディストやストリーキングになる気のない二人は、何とか乳首や股間を隠しつつ、しゃがんだまま中学生相手にがなりたてた。あまりの剣幕に、好奇の視線を寄せていたオヤジが思わず引くほどだった。
「アホか!いちゃもんつけて来たの、そっちの方やないか。イケイケがなんぼのモンじゃい!ムネやケツでかいからって、そんなにエラいんかい!ブスのクセにナメっとたら、風呂に沈めてまうぞ!この…アホンダラ!ボケカス!」
 そのままコソコソと逃げ出せばトウジも満足したが、文句を言われると一気に頭に血が上って早口で恫喝した。二人は見られる事には慣れていたが、公衆の面前での露出には耐えられず、屈辱と羞恥に肩を振るわせながら猫背のまま更衣室へ逃げ帰った。
「…私、どうしたらいいの?」
 すっかり騒ぎから取り残されたレイは呆然としていた。彼女が感情に任せて暴挙にでたのはゲンドウをなじったシンジをぶった事くらいで、白兵戦の訓練を受けた事があるがエヴァとシンクロする為、日頃から精神を安定させるのに注意を払っていた彼女はこれまで民間人に手を上げた事など一度も無かった。
「ええ気味やろ、笑ろうたれ!思いきり笑え」
 トウジは勝手に胸がスッとしていたが、レイのアンニュイな表情を見るとスクミズを着せた負い目もあって、なんとか元気になってもらわないと立つ瀬が無いので、おのずと声に力が篭った。
「くっくっくっ…ひゃーはっはっはっはっ!あはあはあはうふうふうふ…」
「ワシ…ちょっと、違うと思うな」
 レイが片手で顔半分を覆いつつ、加減を弁えずに笑い声を上げると、トウジは耐えられない様子でひとりごちた。本当なら、二人で笑いたかったが果せず、もしかしたらレイの頭の中には笑い袋が入ってるのでは思った。


「何て…無秩序なの」
「無秩序って、みんな水遊びしてるだけやないか。ここ、スポーツクラブちゃうぞ」
 二人は通路を抜けて屋内プールのメインと思われる多目的プールの前に出るが、第一中学に入るまでネルフ本部があるジオフロントからで出た事も無くてネルフと学校のプールしか知らない少女と、大阪で暮らしてた頃から市民プールになじんでいた少年では印象も異なる。
「そう…」
 レイにとってプールの近い道は水泳の練習とリラクゼーションくらいしか思いつかず、目と鼻の先にいる水と戯れる人々が理解できなかった。もちろんビーチボールや浮き輪も見たことが無く、知ってるのは救命胴衣とゴムボートぐらいであった。
「実は、人多かったら、中で漏らしてる奴おると思ってんねやろ」
「…芦ノ湖にしなかった事が…悔やまれるわ」
 レイはシンジはおろかアスカも口にしない下品な発想に一瞬絶句し、シンジやケンスケより体格に優れ、引き締まった肉体を持つ少年なら遠泳もこなせるだろうと感じた事を思い出す。
「あかんな、また余計な事ゆうてもうた。綾波が水に入って上がらな、スクミズのケツの部分が張りついて、それを戻そうと指入れてキュってする所、見られへん…」
 トウジはかつて親しい仲と言われたヒカリに出された手作り弁当に軽はずみな感想を述べた事で、それ以来すれ違っても声も掛けれなくなった苦い経験を思い出す。しかし、思春期の少年は、目の前の少女に対して手頃な色気を望んでいた。
「些細な好奇心に甘んじていては、明日への希望はないわ。私達は…相棒よ。未来の事を考えなくては…」
「まるで、米百俵やな。綾波の側におったら、ええ事があんのか?まあ、寸を曲げて尺を伸ぶ、や」
 レイの言葉にトウジは少女の言葉の重みや志の高さに感心しつつも、色恋への期待は捨てきれなかった。
「そうね、なら…まずフォースチルドレンとして最初の訓練をするわ。兵は神速を貴ぶ…よ」
 レイは静かに答え、フロアの先にある高飛び込み競技用プールの方角に首を向けるとすぐさま歩き出す。
「飛び込み台って…ネルフって根性試しがあんのんか?」
 毅然とした様子で歩いていくレイの後にトウジは続くが、彼女の真意を計りきれなかった。しかし、トウジにとっては歩調と共に揺れる少女の小振りだが形の良いヒップとむっちりとして柔らかそうな太股を間近で見れるチャンスにも見えた。
「ネルフに、そんな前時代的な習慣は…ないわ。エヴァは発進する際、輸送台兼拘束具がリニアレールで地上まで高速で…移動するの。だから、急激なGに対処できなくてはいけないわ。上下の違いはあっても、要領は…同じ」
 レイはネルフの機密は守るが、嘘をついたり誇張するようなメンタリティはないので、ありのままをトウジに伝えた。
「もしかして…ワシが恥かかんように、心配してくれてんのか?」
「それだけじゃないわ。ネルフは…国連軍よりカッコ良くキメなくてはいけないの。その為には、涼しい顔でGを受け流せるくらいでないと…」
 トウジは不器用なりの優しさと受け取るが、同時に少女のプライドの高さや頑固さも垣間見た気がしたものの、ネルフのスタッフに共通する傾向とは予見できなかった。
「別に、腹打ちさえせんかったら、格好は関係ないやろ」
 階段を踏みしめながらもし、この先がウォータースライダーなら気分も違うだろうと、少年は顔にはおくびも出さず胸の奥で思った。
「なら、私は…先に後向きで飛ぶわ」
「見本見せたいんか、余裕なんか…どっちや。まあ、綾波の方がマシや。アスカやったら、絶対押して来るやろうな」
 本来、着水までの演技やフォームを競う競技の為に作られた別々の高さの三段の台からなる施設の階段を上って行くと、トウジは低い台から順に飛ぼうと言い出す間を失った。
「いいかぁ、これくらい軽くやってのける度胸がないと、地下にあるSF野郎のアジトにだって突入できんぞぉ!」
 二人が最上階に上がる前にすでに先客がいた。五人の男達の中で、歩きながら大声を出す一人がリーダー格で、残りの並んだ四人は部下であると見て取れた。全員がっしりとした体格で髪型から水着まで同じで、首にかけた認識章からして明かに軍人のようだ。
「おっさんら、何トロトロしとんねん。飛び込まへんねやったら、ワシら先行かしてもらうで」
 トウジはこれまで飛び込み台に立った事が無く、眼下に広がるプールとの距離を考えるとやはり恐く、恐怖を長引かせるよりいっそ早く飛んでしまいたいと思った。
「おい、誰がおっさんだ!自分はまだ29歳で独身だ。中学生の分際で生意気な…子供は一番低い所で充分だ!」
 二の腕に階級章を刺青している男はトウジの何気ない一言も聞き逃がさず、いちいち怒鳴り返す。
「あなた達、戦略自衛隊ね。停電に飽き足らず、まだ…私達の邪魔する気?」
 レイは五人の所属を言い当て、険を含んだ声で問い掛ける。ネルフと戦自は元々犬猿の仲なので、彼女は遠慮しなかった。
「お前達、さてはネルフのロボットのパイロットだな!」
「パイロットじゃないわ、チルドレンよ。エヴァはロボットじゃない…汎用人型決戦兵器」
「こっちも、ロボットぐらい作ってるんだ。そんなにあのメカの事を説明したかったら、このまま基地まで来てもらおうか?」
 推理が的中した下士官は優位に立てた気分になり、ネルフを牽制する為に機密まで持ち出してからんでくる。
「碇司令も私も…計画を妨害する勢力に荷担しないわ」
「おっさん、知らんのか?子供は国の宝や。無碍にしたらバチ当たるで」
 二人は人数の差にもめげず、あっさり拒否の意志を示す。
「誰が…お前らの言い分を聞くと言った!」
 下士官の怒りは頂点に達し、ついにナイフを抜いた。
「あなた…大人気無いわ」
「ワレェ、ガキ相手に何ドス抜いとんねん!」
「黙れ!命が惜しかったら、おとなしくしろ!」
 自分が中学生の頃を思うと目の前の二人は明らかに年長者を舐めきった態度なので、下士官は恫喝せずにいられなかった。
「ムチャクチャやないか、ほとんどチンピラ並や」
「スズハラ、心配いらないわ…脅威はすぐ排除するから」
 トウジが怒りを通り越してあきれた表情になるが、レイは短く伝えると歩き出して相手との間合いを詰めていく。もちろん下士官もレイの目を見据えたまま、ナイフコンバットの構えを崩すようすはなかった。
「どうした、そんなグローブで勝負する気か?はッ!」
「あなたの右腕の…筋肉と神経の密接な繋がりを断ち切ったわ。左手は、利き手じゃなさそうね」
 相手が年端も行かない子供なので、たとえ格闘をかじっていたとしても素早い寸止めの一撃で戦意喪失するだろうと睨んでいたが、シンジならいざ知らずレイの前にはもろくも目論みが崩れ、見きっていた彼女はカウンターのように手を伸ばして敵の前腕部を掴むとそのまま手首を捻ると同時に引っかくとバニューム鋼の爪が食い込んで腕の肉を引き裂いた。上官が少女の一撃を受けたシーンには、兵士達を一瞬にして驚愕の表情に変えた。
「うぐぐッ…」
 下士官のナイフを持つ腕の肘から先は力なく垂れ下がるが、拳は力が入ったままでナイフを離す事もできず、必死に傷口を空いてる方の手で押さえるが出血は止まる様子はなく、とめどもなく溢れた。
「血の匂いには…慣れておいたほうがいいわ。LCLの匂いもそうだから」
 本来ならもっと攻め込む余裕もあったレイは、流血の惨事を利用してトウジに講義した。
「…勉強になんで」
 トウジは始めて見る凄惨な光景に一瞬言葉がつまりつつも、血溜りの血が自分の方に流れてこない様願っていた。
「間違いは…体で覚えるべきよ」
 ピキーン!バシッ!
「こんな、バカな…」
「ひいぃ…!」
「うわあぁぁぁー!」
 兵士達は目の前に突然不可視の壁が現れると、一瞬で手すりまで叩きつけられ、なすすべもなく全員が反動で変形した手すりの向こうまで弾き飛ばされて落下した。
「今の…何や?」
「ATフィールドよ。…まだ、一方向に平面でしか展開できないの。実験で…脳の隠れた領域に触れた結果よ。エヴァに乗れば…展開できるわ。あなたの熱血なら、エヴァだって…きっと応えてくれる筈…濃いキャラの強みじゃない」
「普段できんのは、綾波だけやろ?もしセンセにもできたら、ワシがどついたりできん筈や」
 トウジの推測は的を得ており、ATフィールドの真の意味を知るレイだから制御できる能力であった。 
「作戦、終了…。私達も、このまま退避するわ」
 レイはこれ以上同じ場所にいては衆人環視になると判断し、トウジの手を強引に引いて僅かな時間で台の先端に着くと、そのまま抱き寄せて水面に向かって飛んだ。
「このままって、一気に飛び込むんかい!」
 トウジがレイの行動に気付いた頃にはすでにレイの腕の中で宙に浮いており、後は重力に従うしかなかった。 


「浮かれていた群集は…注意も散漫だわ」
「なあ、綾波…実は『飛び込みに挑む』やのうて、『飛び込ませる』が目的やったんとちゃうか?」
 二人は着水した後、目立たぬよう潜水でプールサイドまで移動し、転落した兵士達と応急処置をしようと駆けつけた職員や群がる野次馬の目に付かないようにプールから離れ、無関係を装い人だかりの後を通る。
「どうして、そんな事言うの?」
「せやかて、計算されつくしとるやないか。ワシ…上に上がるまで、あんな大立ち回りやそんな手袋した手で抱きつかれて強引に飛び込むなんて見当もつかんかったで」
 傍目から見ると一般の中学生にしか見えない二人を誰も乱闘の当事者と思うものはおらず、当人達ものんきに会話していた。
「この護身具も…役割を終えたから、外すわ。身体に触れられるなら、碇くんとの方がよかった?」
「アホか、センセより女の方がええに決まっとるやないか」
「なら、どうして怒るの?」
「ワシかて、わからず屋やない。ただ、人前で抱き合うのは、ちょっと…」
 レイは水に浸かる前から冷静だったが、トウジは水に浸かっても頭が冷えなくてレイに文句を言いたかったものの、心の奥では信用していたし悪意が無かったので強く出られなかった。
「二人きりだったら、いいの?」
「お前は…どーやねん」
「私は、あなたに…聞きたいわ」
「…その時にならな、分かるかい」
「そう…」
「……」
 トウジはレイの真意を探ろうとしたが、逆に質問される有様で、困り果てて沈黙してしまった。
「この“間”は、まさしく期が熟したんだわ。こっちよ」
 それは、トウジのたわいもない一言からレイが導き出した結論だった。
「おい、どこ行くねん!」
 トウジの困惑をよそにレイは通路を進んでいくと、トウジもついていくしかなかった。
「ここが最適の場所で、今はおそらく無人だわ」
 レイは公営プールという施設の性格上、設置が義務化されてるであろう設備に着目していた。
「医務室なんかにおったら、さっきのおっさんら運ばれて来るんちゃうか?」
 トウジはレイに続いて入室するが、同時に先刻の乱闘の余波への懸念も拭えなかった。
「彼らの負傷がここで処理できるレベルでないのは明らかだし、戦略自衛隊病院に搬送される線が有力だわ」
 おそらくこれまでこの部屋に運ばれた負傷者はせいぜい足がつったり肉離れ程度であったし、規模や利用目的からしても大会などの場合だけ形式的に医師が詰めるのみだとレイは推察し、現に競技用プールと違い、使用頻度に比例してトラブルも多目的プールに集中していた事もあって、当然担当者も不在で無人であった。
「密室で一組の男女…やる事はひとつってか」
 後から入室したトウジは辺りを見まわすと、保健室よりも貧弱な設備に呆れつつも、ベッドを思わせる診察台を発見すると日頃同じクラスの女子には言えないような冗談を言ってみせる。
「こういう雰囲気も悪くないわ。ここが、私達にとっての…始まりの場所、魂の座よ」
 二人きりになれた場所が生まれた場所が、くしくも自分の部屋の雰囲気に似てるのに何か縁のようなものを感じ、レイはトウジと向き合って決意を示す。
「マジ…か?」
「ねえ、スズハラ…私とひとつに…」
 レイは初めて対人関係で緊張と不安に苛まれながらもトウジの目を見つめたまま、体の震えを精神力で抑え込んで語りかける。

−To be continued−

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