《ギコ猫琴音 2スレ目》

全年齢
Written by 瑞雲





「でね、そのクマが笑うときもクマハハハ!だって、おかしいでしょ。それにね、世界一小さいテディベアが作れるのはドイツの女の子だって。ギネス公認なんだよ。すごいよね、浩之ちゃん」
「よくもまあ、そんなにクマのサイトばっかり見れるんだな。たまには、料理のサイトにも行けよ」
 いつものようにあかりと学校に向かっているが、最近あかりの様子が変わったみたいだ。メカが苦手なあかりが知らぬ間にパソコンを手にして、瞬く間にネットで好きなホームページばかり見て、すっかりオレの弁当を作らなくなってしまった。
「後ね、普通のCGと思って、そのクマの顔の上で偶然クリックしたら、クシャってなって…もう、イヤー、カワイー!」
「お前な、そうやって毎日、夜中にネットばっかやってると、寝不足になっちまうぞ!」
「大丈夫だよ、浩之ちゃん。今の回線は昔よりずっと早いんだから。でも、夜更かししすぎたら、目の下にクマが…クマだって、ホント、クマだらけだね」
「ついていけん…」
 オレは校門の前まで来ると、無類のクマ好きから離れ、反対側から来た最近知り合った女の子の方に行く。
「ぃょぅ」
「ぅぃ」
 琴音ちゃんはオレの後輩で、超能力を持つ美少女だ。入学してしばらくは昔と同じように自らの力を制御できなくて苦悩に満ちた日々を送っていたが、ある日ネットと出会い、匿名の巨大掲示板である2ちゃんねるを知り、そこで悩みを打ち明けると、さまざまな情報を得て力を使いこなせるようになって充実した日々を送っている。そして、どういう訳がオレのことが気に入り、二番目の恋人を名乗っている。
確かに、無人の教室で愛し合えるのはそんな関係でないと無理だけど、独特の話し方をするクセがあってオレにもそれがうつってしまっている。
「最近、どうよ?」
「やっと新しいスレが立ちました。今度は『ESP◇◆超能力者の女の子1.5◆◇萌え』です」
 琴音ちゃんが2番にこだわったのも、スレッドにキリのいい番号にカキコする事が名誉なことらしく、スレが続くのは1000までだそうだけど、話題がある限りスレが続くとは最近まで知らなかった。伸びるスレは良いスレで、その住人である琴音ちゃんも尽力をつくしているらしい。
「荒らしは無い?」
「宣伝も煽りもありませんでつた」
「昨日のジパングちゃん、どうだった?」
「まあまあですた」
 オレはネット環境はおろか、パソコンすら持っていないけど、琴音ちゃんから話を聞けるのでいいと思ってる。もし、一人暮らしのオレがネットにハマってしまったら、即ヒッキーになってしまいそうで怖かったりする。琴音ちゃんはカキコ以外にアスキーアートで絵を描くのも好きだし、世界の国々を擬人化して国際社会をテーマにした寓話もドラマのようにかかさずチェックしているらしい。
「そういやさ、今日体育で走り幅跳びなんだ、協力きぼんぬ」
「任せてください、新記録ゲトー!できるといいでつね」
 琴音ちゃんの能力で一番強いのはサイコキネシスなので、助力を求めることにした。オレは面倒くさがりと言われてるが、四時間目に体育という時間割は理不尽極まりないし、陸上部の連中が活躍するに決まっているので、オレも実力以上に飛べたら番狂わせができるに違いない。
「お昼休みは、給水タンクの下に飛びましょう」
「激しく同意!」
「浩之たん、今は禿同!でつよ」
 琴音ちゃんはテレポートも使えるので、ハシゴを使わないといけない戸屋の屋根にも秘密裏に行けるのだ。屋上は誰でも行けるけど、誰も来ない場所の方がリラックスできるし、今は琴音ちゃんが北海道の素材を主に用いた料理を作ってくれるので、食事も楽しいのだ。
 それにしても、2ちゃんねる用語も日に日に進化してるので、オレも買ってきた用語ジテソを授業中にでも目を通す事にしよう。


 教科書で本を隠しながら本来ならネットで見れる情報を活字でチェックしていた。専門用語はもちろん、アスキーアートのキャラ、アングラな知識を蓄えていくうちに、気がつくと四時間目が始まろうとしていた。
 走り幅跳びのテストと言っても、だるくてすきっ腹な状態は変わりないので、適当にランニングをしつつも、一年生の教室がある階に目をやっていた。オレには琴音ちゃんがついてるから、日頃から足腰を鍛えている雅史や技術的に確かな陸上部にだって負けないはずだ。
 オレは出席番号が後半なので、しばらく三角座りをして時間をつぶせるいい身分のように見える。しかし、これから50b以上離れている琴音ちゃんと秘密裏に連絡を取らなければならない。オレは体操服の下に忍ばせているドッグタグに触れる。琴音ちゃんとテレパシーで交信するのは金属製のモノに触れる必要がある。いわゆるアンテナの役割をするのだ。金属といっても何でもいいようで、100円ショップで買った軍の認識票のレプリカでも立派に用を成すのだ。本当は指輪や腕時計でもいいけど、体育の授業中だと考えたら、ネックレス系が望ましいが目立つようにしていなければ問題ないし、もし訊かれても「静電気避けです」と言えばいい。
『浩之タン、入室してまつか?』
『ああ、感度良好さ』
 もちろんオレから念を送ることはできないので、当然琴音ちゃんが先になる。琴音ちゃんのテレパシー能力は比較的弱く、おおよそ見える距離でしか交信できないので携帯のようにはいかない。それに、こっちからも頭の中で話さないと会話は成立しない。
『何回、djでつか?』
『連続で二回飛んで、いい方を採用するんだ』
 限られた範囲の能力でも、琴音ちゃんはチャットというリアルタイムな文字でのやりとりに準えて活用してくれる。コソーリな関係が続く秘訣も工夫にあるようだ。もし携帯だと、志保あたりに着信履歴やメモリを覗かれたら一発でバレてしまうだろう。
『雅史タン、イイ!フォームでつね。カコイイ!』
『漏れもあれくらい逝けたら、言う事なしだと言ってみるテスト』
『どの瞬間に背中を押したらいいでつか?』
『ジャンプした瞬間で、どうよ?踏み切る瞬間だとタイミングが合わない罠』
『禿同!』
 打ち合わせをしていると、ついにオレの出番が来た。
 飛び終わるまでは交信できないけど、とんだ瞬間に見えざる手に押される感覚が背中に感じ、いいかげんな助走とは裏腹に実力以上に長く重力に抗って遠くに着地した。雅史の記録に近く、初めての試みにしてはなかなかのコンビネーションである。
『上々だ、この調子でオナガイシマス』
『背中はdだ瞬間に丸まって力を入れにくいので、別の場所にしまつ』
『そうしたら、記録が伸びそうか?』
『キリ番ゲトー!できたら、いいでつね』
 これなら、雅史を超えることも難しくないと思い、オレは気合を入れて二回目に挑む。
「逝くぞ、オルァ!」
 オレは力強い助走と共に激しく跳んだ。
「おわっ!?」
 ぴゅーっ、ドスン、ズサーーーッ!
 宙に浮いた途端、琴音ちゃんの力が働くが、なんと太腿の裏側なので、姿勢が大きく崩れ、進行方向まで狂った。
 ほとんどパニックに近い状態で、オレは着地した。まるでヘッドスライディングでぶざまな有様だ。
「おかしいだろ、ゴルァ!」 
 オレは砂を払いながら、立ち上がる。もちろん記録は悪い。侮蔑に近い視線を浴びながら砂場を振り返ると、その表面に「スマソ」と琴音ちゃんが謝罪の言葉を見えない指で書いていた。
「鬱だしのう…」
 こんなはずじゃなかった。オレは思わず呟く。


 鬱だろうがハイだろうが、昼時には腹は減るもので琴音ちゃんと待ち合わせの場所へと向かう。
「正直、すまんかった。先に逝ってきます…」
 途中の階段で琴音ちゃんに会うが、彼女は俯き加減で手足をぶらりとさせて首吊りのAAを真似た「無念のポーズ」で床から数a浮いた状態で屋上へと向かった。そこまで謝意を示されては、琴音ちゃんを責める気は失せてしまう。
 この学校は昼休みに屋上が開放されていて、昼食を食べたり黄昏たりできる。しかし、今日は生徒会役員や部活の幹部といった自分達は凡人とは違うと自称する輩が群れているが、オレ達は戸屋の裏に回って凡人ではたどり着けない場所に飛んだ。
「なんで、今日は焼きもろこしだけなんだ?」
「食生活を管理できないと、体脂肪を一定させるのは難しい」
「何だよ、それ」
 文句を言いつつも、新聞紙に包まれたとうもろこしを一本頂戴する。
「そういえばさ、琴音ちゃんってどんなパソコン使ってるの?」
 確か、琴音ちゃんは中古で買ったノートパソコンを使っていたが、優美なデザインとは裏腹に三ヵ月後にはウンともスンとも言わなくなって文字通り○○○タイマーと呼ばれるように見事に壊れたと言っていた。残ったのは従来のものの十倍は持つ燃料電池式のバッテリーだけらしかった。
「今は、ドルフィン2号…これです」
「へえ」
 オレが訊くと、琴音ちゃんはデジカメ写真を渡す。そこには、カスタムと思わせるデスクトップ式のパソコンが写っていた。それは、キューブ型と呼ばれるメーカー製にはない小型のケースで、琴音ちゃんの髪と同じ紫色に輝いていた。もちろんスピーカー内臓液晶ディスプレイやキーボードやマウスも同じ色をしていた。小さくても性能もよさそうで、コストは新型のノート型と同じくらいしそうだ。
「随分、個性的だね。回線は何を使ってるの?高いと、あんまり繋げないんじゃない?」
「無線LAN方式で、ただなんです」
「エッ!ダダ?」
「近所の議員先生の家の無線LANネットワークが無防備なんで、タダ乗りさせてもらってまつ」
「それって、ヤヴァイだろ。大体、そんなに簡単に割り込めるのか?」
「無敵のコードがあるから、簡単です。出費はLANカード一枚だけで済みますた。それに、IT社会の実現という公約を一向に実現させてくれない先生がいけないんでつ」
 素人のオレにとっては、にわかには信じられないけど、実際に接続できるんなら可能なんだろう。しかし、この国の不公平なネット事情に手をつけれる筈の人間がなんら策を講じていないのも嘆かわしい事実だ。国によっては、図書館で無料でネットができるのに。
「それに、タダ乗りしてるだけじゃないんでつ。ウイルスを駆除したり、定期的に最適化やOSをアップデートしてあげてるんでつ。きちんと管理しないと、見栄で買われたパソコンでも、あまりにかわいそうでつ」
「偉いな、琴音ちゃん」
 なでり、なでり
 超能力やパソコンのスキルがあっても悪用しない琴音ちゃんの人の良さに関心した。ますます琴音ちゃんが愛らしく見えたので、気がつくとその頭をなでていた。 
「ギコはにゃ〜ん」
「アヒャヒャヒャヒャ…」
「浩之たん、この場面でその笑い、イクナイ」
 こうして、オレ達はまたーりとした昼休みを過ごした。


「琴音ちゃん、やっぱりとうもろこし一本じゃ持たないな」
「それでいいと思われ。これから、チキンのお店でビスケたんを食べに行きましょう」
「食べ物なのに、名前にたんがつくのか?」
 琴音ちゃんは超能力を使うと疲れたりお腹が減るそうだが、いつもと好みが違うのでおや?と感じた。
「甘くておいしいから、みんな萌えてるんでつ。だから、いいんでつ」
「志保もきっと知らないから、ぜひ食べに行こう」
 チキンの店なのに、なぜチキンでないか謎だけど、揃って駅前の店に向かう。
 エラそうなラーメン屋と違ってさほど並ばなくて済んだけど、琴音ちゃんはあえて一人並んでいる後に並ぶ。そして、自分の番が周ってくると、店員に元気よく注文した。
「ビスケたん、きぼんぬ!」
「ここで、食べます」
 注文を終えると、オレ達はそれを持ってテーブルについた。それは、オレが考えていたものと違って、むしろパンに近く見えた。
「こうやって、ハチミツを塗って…ウマー!」
「ビスケたん、うめぇよ」
「ウマー!」
 オレ達は飲み物を頼むのも忘れて、夢中で食べた。ふんわりとした生地とハチミツの甘さが口の中に広がる。怪しい牛肉やハムなど足元にも及ばないおいしさだった。
 二人で店を出た頃にはすでに夕方になっていた。夕日が真っ赤だった。
「浩之たん、お日さまを背にして走りましょう!」
「何でだよ、まだ体が重てーよ」
「さいたま、さいたま、さいたまー!」
「ったく、しょうがねえな」
 何だかわからないが、琴音ちゃんはノリノリなので、オレも合わせることにした。今や、夕日を背に走る時代らしい。
「さいたま、さいたま、さいたまー!」
「ここ、神奈川あたりなんだけどー?」
 オレも笑顔の琴音ちゃんを追って、さわやかに走った。回線がなくても通じ合えるオレ達の歩調は、これからも一致するだろう。

−FIN−

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