《ギコ猫琴音》

全年齢
Written by 瑞雲





 新入生が入ってきた日も、志保はいつもの下らないウワサ話をしていた。確か特ダネによれば、超能力少女が入学したと言っていたが、オレは美少女なら結構な話だと思っていたけど、入学説明会の日に校長の近くに照明器具が落下してきたのを予知して救ったと言われてもパッと来なかったのだ。しかし、オレが体験する時が訪れた。あかりに次ぐ二人目の幼なじみ雅史と食堂に向かっていたら、ウワサの少女−姫川琴音が現れて階段が危ないと言ったのだ。でも、オレはすでに1年間在学しており、慣れた階段でそんな事が起きるはずが無いと思っていたのに、現実に派手に転んでしまった。その寸前、足に奇妙な感触を覚えた。これはまさしく見えざる力の所業に違いない。この瞬間、オレは彼女に魅せられてしまったのだ。髪が長くほっそりして綺麗で愛らしい超能力者に…
 偶然、放課後に彼女に会う事ができたので、話しかけようとしたが、すぐに逃げられてしまった。数日後、どうにか休み時間に会う事ができて校内を走り回ってなんとか追い着く事に成功したが、なんとか話しかけようとするが応じてくれず、最後には「ゴルァ!」と怒鳴られてしまった。どうも困らせすぎたせいもあったけど、普段は敬語を使う上品な娘だけあって思わぬ反応で怒鳴り声もどこか個性的というか不自然で人見知りするタイプに思えた。その後も時間を見ては会おうと教室にも行くが本人には会えなかったものの、同級生からの証言を得て彼女が自分の能力で悩んでいたり、周りから気味悪がられて孤立している事が分かった。時には琴音ちゃんから声をかけられて話ができる時もあったが、弾んだ表情もすぐにいつもの困惑した表情に変わって走り去られる事が多かった。しかし、オレは一緒に帰る事ができれば琴音ちゃんの事を理解して力になれるのではと思い、手筈をうった。一年生の授業が終わる時間を見計らい、校門で待つ事にした。



「藤田さん…」
「琴音ちゃん、一緒に帰ろうぜ」
 オレは琴音ちゃんと目が合うと、仰ぎ見るように見つめて満面の笑みを浮かべる。
「一人…でっ、でも…どうして、わたしに関わろうとするんですか?去年まで厨房だったのに…」
「厨房?ああ、中坊の事…か。せっかく、会えそうな時間調べておいたんだからさ」
 オレの人懐っこい?笑顔に琴音ちゃんは戸惑いながらも素直にオレの言葉に耳を傾ける。
「藤田さん…結構、情報もってるんですね。…いいですよ。実は、予知できてたんです」
「へえ、すごいな。ところで、琴音ちゃんって絵を書くのが得意なんだよな」
 琴音ちゃんがオレに着いて来るように歩き出すと、オレは琴音ちゃんを持ち上げるように話を振る。
「やだ、覚えてたんですか!恥ずかしい…」
「で、どんな絵を描くの?」
「…パソコンを使うんです」
「それって、CGの事?すごいね。もしかしてヤック使えるの?」
 琴音ちゃんは恥ずかしがりつつも、オレの矢継ぎ早の質問に答える。人間、好きなことについてはついつい話してしまうものなのだ。後輩の美少女も例外では無いらしい。
「違います、アスキーアートです。半角文字や記号を組み合わせて描くんです。顔文字よりも奥が深いんですよ。今度は…イルカさんに挑戦するんです」
「1年しか変わらないのに、進んでるな。俺が住んでる所なんて、全然ダメさ。ネット環境なんて呼べるものはロクにないんだ。繋いでも、すごく遅くて時間とカネを捨てるようなものなんだ。近所の大きい家電の店はサポートがいいかげんで、とてもパソコンなんか…。それより、学校ではあまり話さないみたいだけど…ネットでなら話すの?深夜ラジオみたいに相談に乗ってくれる人がいるとか」
 オレのツボをついた質問に琴音ちゃんは熱っぽく答えるが、思わぬジャンルに反れるので、オレの付け焼刃の知識すら出す場面はなさそうだ。
「そうですね、2ちゃんってすごく便利で為になるんです。すごく大きい掲示板で、質問に答えてくれる人もいて、わたしの力もかなりコントロールできるようになりました」
「でもさ、超能力の話題って…やっぱりバッシングとかもあるんだろ?イヤな奴が出てきて…相談に乗ってくれる人の迷惑にもならないのか?」
 オレには馴染みが薄いが、テレビや新聞でも2ちゃんねる掲示板は話題になっているので、琴音ちゃんが住んでいるエリアのネット環境が良いならアクセスしている可能性も充分ある。テーマが多いだけに、超能力についても様々な意見が交換される筈だ。しかし、みんなが好意的とは限らないので、そんな場合はどうするのだろう?琴音ちゃんは学校でも仲間はずれに近いので、本当に心配だ。
「コソーリしてるから、大丈夫です。無理にHN名乗らなくていいし…荒らしや厨房には言うんです。氏ね、とか…オマエモナー、もっと頭に来たときはゴルァ!とか逝ってよし!って。関係ない広告もボランティアの人が削除してくれます。そしたら、あぼーんで終わりです。つまらないスレでもいつもageだと荒らしが多いし、そのうち落ちて倉庫行きになります」
「へー…」
 琴音ちゃんはオレが思っているより強い子なのかもしれない。直接顔を合わせないとは言え、いろんな人とのコミュニュケーションを通して処世術を学んだのだろう。ネットの情報量に比べたら、志保ちゃん情報などという下らないウワサに振り回されている連中がガキに見える。
「どうしたんですか?そんなに口を開けてたら、モナーみたいですよ」
「いやぁ、あかりたちと話すときとリズムが違うから…モナーって?」
 オレがポカンと口を開けていると、琴音ちゃんはいつものように拳を口にもってくると微かに微笑んだ。
「普段はマターリされてるなら、モララーに近いですね。アスキーアートで描くキャラですよ。藤田さん、もっと勉強してもらわないと話しにくいです」
「そうだな、志保や雅史に一度聞いてみよう」
「三人で踊ったらおにぎりワッショイですね」
「…別に踊る気は無いんだけど。もし一人で踊ったらどうなんだい?」
「ランたんは恥ずかしがりな子で、誰もいない時しか踊れないんです」
「琴音ちゃんも…そんなタイプ?」
「…鬱だしのう」
「ごっ…ごめん。じゃあさ、今度インターネットカフェに行くよ。で…その掲示板に行った時、どうやって琴音ちゃんを見つけたらいい?」
 琴音ちゃんはマニアックな言葉ばかり使うが、オレにもきっと分かれば楽しめるように感じた。琴音ちゃんだって超能力をコントロールする術を見つけたので、機会があればオレにだって欲しい情報は見付かりそうだ。
「そうですね…わたしのHNはねこっちゃです。実は、コテハンなんですよ。まだ北海道にいた頃、ラジオにハガキ出す時に使ってました。それに、わたしの絵…AAを見たら分かります。コピペじゃないですよ。それより、藤田さんの下の名前って何ですか?」
「ああ、浩之って言うんだ」
 琴音ちゃんがネットに抵抗なくハマって行ったのは地方出身者だし、冬は寒くて家にいる事が多いのも関係したのだろう。直接口に出さなくても文章で気持ちを伝えれるというのも大きな魅力だと思う。
「えっ、じゃあ…管理人さんと同じですね」
「楽しそうだね。始めて笑顔見せてくれたじゃないか」
 オレは訊かれたから普通に答えたのに、琴音ちゃんは満面の笑みを浮かべる。きっと、偶然だろうが、琴音ちゃんに生きがいを与えてくれた恩人の事を思い出したに違いない。とにかく、琴音ちゃんが前向きになれる時があると分かっただけでも、オレはもっと気楽に接する事も難しくなさそうだ。
「どうしてでしょう。休みの日はヒッキーで、普段だと学校はマズー…って思ってましたけど、今はキタ−!って感じです。どうですか?今度、二人きりでハァハァしましょう。きっと、あの夢も予知だったみたいですね。放課後の人気の無い教室だったら、セクースもできてウマーじゃないですか」
「なあ、琴音ちゃん…俺を誘惑してるのか?」
 琴音ちゃんとの距離は思ったより近いみたいだけど、肉体関係まで匂わされると、オレはどうすればいいのだろう?今日一緒に帰れるのも琴音ちゃんがオレの動向を見て予知が当たるか睨んでいたのかもしれない。確かに、両者に取って不幸な事ではないので、的中するのも悪くないが、琴音ちゃんはどう思っているのだろう?先の事が分かっていてあえて抗わないという事は、恋愛に移行するのも悪くないと取っているのだろうか?でも、それだってオレが琴音ちゃんの理解者たろうとした可能性も大きいはずだ。
「藤田さんが、こうして接近してきた事自体、予知が当たりつつあるんです。でも、その時になって…わたしに萌えるかどうかは、藤田さん次第です」
 オレが頭を抱えているのを知って知らずか、琴音ちゃんはマイペースに語る。きっと、血液型はB型だろう。初めて話しかけようとした時もネコのようにサッと逃げてしまったし、こちらの意見を通そうとしても意に添わないときは拒絶してくるし、そうなった場面で、オレから逃げなかったらOKという事になる筈だ。その時は、男としてなすべき事をなせばいい。
「予知って、前から判ってたのか?」
「当ったら、ガイシュツです」
「それを言うなら、既出だろ?」
「激しく同意!」
 琴音ちゃんは自分の予知能力に自信があるのか、それともオレの手が早いと確信してるのだろうか?
「…ったく、しょうがねぇなあ。その代わり…その時の感想をカキコするのはナシだぞ」
「はい。藤田さん…そろそろ、失礼します。初体験間近のスレを立てないといけないんで…それじゃ、神岸先輩によろしくとお伝え下さい」
「えっ!あかりを知ってるのか?」
 ひとりで盛りあがってるから、すっかり周りが見えてないのかと思ったら、一応オレの人間関係も把握してるらしい。オレは仰天して立ち止まる。
「はい、わたし…葉鍵板の住人でもありますから」
「なら、どうして気があるようなそぶりを…それじゃ尻軽…あわわ」
「萎えないでください、藤田さん。いいんです、だって…わたし二番目キボーンですから」
「そんな、いくらなんでも、年下だからって…」
 琴音ちゃんはオレが言い終わらない間に突然スライディングしてきた。オレは少女の思わぬ挙動に驚く。なんと、スカートが翻るだけでなく、ご丁寧に土ぼこりまで立っていた。アスファルトなのにそんな芸当ができるなんて、まさしくエスパーの所業である。
「だって、2番ゲットをしたいんです。それが2ちゃねらーの定めです」
「琴音ちゃん、君は…?」
 一瞬、オレは琴音ちゃんが怪しい電波を受信してるのではと感じ、思わず訊いた。
「煽りじゃないですよ。浩之タン、カコイイから付き合いたいと思ってます。ピュア。オナガイシマス」
「わかったよ、で、明日から俺達はどうなるんだ?」
「俺じゃなくて、漏れにしてみませんか?そうですね、sage進行がいいです」
「じゃあ、最初はまたーりって、いつの間に俺まで…」
 結局琴音ちゃんはオレが力にならなくても超能力がコントロールできるのに、オレに好意を抱いているようだが、真意が読めないのでやはり尋ねる事にした。しかし、琴音ちゃんは短く答えると一瞬にしてオレの前から消えてしまった。彼女は非凡な力だけでなく、異性との距離も見事にコントロールできるので、心配するだけなくもっと積極的に接して行けばきっとオレにも春が来るだろう。

−FIN−

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